12/28/2016

12月 近況まとめ

今年も、残すところ4日になってしまいました。毎年毎年、自分の想像していないようなことがたくさんおきるので、来年も何が起きるのか楽しみです。

7日 カザフスタンの研究炉で照射実験ができないかの打合せを行いました。かららの研究炉で受託を受けたことがないようで、議論が少し骨が折れました。それと、研究者なのに物事に対する真摯さ、謙虚さがないのでこりゃダメかもな、と思いました。研究者は、過去の自分のやったことについても厳密に評価しなくてはいけません。正しいものは正しい、できたものができた、でもそれとは裏返しに、自分の研究の意義がわかっている人はどこが限界で、どこが穴でどのように次にやらなくてはいけないかをわかっているものです。対人的に傲慢であっても、研究について謙虚さがないというのは、知識がなさすぎるのと同じで研究コラボの相手として最低です。

9日 教授承認のお祝いで研究室OBの寺本先生、五十嵐先生に開催していただきました。すごく小さなもので、今まで共同研究をしたことのある方だけに絞ったものでした。大変楽しい親密な会になりました。

14日 京都で科研Aの研究としてジオポリマーの研究について紹介させていただきました。材料が利用できるかどうか、っていうのは適材適所でどんなものでもどっかに使えるとは思うのですが、通常のセメントコンクリートほどの汎用性があるかというのはやはり領域は小さいように思います。私はそれよりもいったいどんな反応速度と生成物ができていて、それはどの程度に制御可能なのか、という点に興味があったのですが、AAMとGPの違いについて、おおむね理解して、基本的なところはスペインや英国チーム、日本の電中研チームにキャッチアップはできたと思います。が、それ以上の研究が必要なのか、何を目指すのは、もう少し時間をかけて、周囲状況を把握した上で考えないと出てこなさそうです。

16日 つくばで防災科学技術研究所の振動台(震動台?)で行われている東北大・高橋先生の研究を見学させていただきました。実はパラレルにやっている研究として私の試験体もかかわっています。振動台をつかって自分が実験をする日が来ることも、数年前には考えもしなかったです。

19日 規制庁に照射研究の報告を行いました。今年度、過去8年の集大成の報告書をつくらねばならず、正月返上になりそうです。ただ、この成果で今後の展開がかわってきますので、やはり一つの重要ポイントとして認識しています。

21日 今年度最後のNUCON(名古屋大学・コンクリーション研究会)。ユタ州の鉄球殻コンクリーションがアジアの全く別のところで発見され、そして、火星の話につながってきました。私は鉄球殻の人工生成という範囲で貢献しましたが、もうすぐ、論文投稿になりそうです。異なる分野で壮大なテーマに取り組むのは、放射線照射研究もそうですが、大変刺激的な体験です。

23日 補講。B3とB2の授業がありました。モルタル作品、面白かったのですが、ちょっと建築物ではなくてオブジェが多かったかな。私としては立体をつくってほしかったので、次年度はもう少し課題を変えようかと思っています。B3の建築と素材、その経年変化に関するレポートは力作ぞろいでした。みな、愛知県に建築が少ないながらも、実際によいものを見て意欲的な発表が多くてとても楽しい発表会でした。

26日 いろんな研究委員会がありましたが・・・。最後、原子力関係の先生方に現在の研究についてご報告して意見をいただきました。今後展開予定のプロジェクトについても、多角的なご意見をいただきましたので、プロジェクト提案に入れ込んでいきたいと思います。相変わらずの、馬鹿を言ったら斬る、くらいの迫力の先生で痺れました。

27日 共同研究先と水分移動に関する実験結果について議論をしました。水分移動、わかっているようでほとんどわかっていません。コンクリートの多くの構成式は限られたデータセットで議論しているので、まだまだ改良の余地があります。多孔体理論、ボルツマン・マタノ方の限界についての議論はまだまだやるべきではないかと思います。

卒論・修論時期で核心に迫るデータが多数でてきています。JCI年次やセメギに投稿してもらいたいと思っていますが、それと同時に英文ジャーナルへの投稿を修士学生でも普通に行える研究室にアップグレードしていきたいと思います。

頑張ってまいりましょう。みなさま、良いお年をお迎えすることを祈念しております。来年もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。


12/24/2016

補足

MITが新しい建築をつくるから,といって研究者を公募した時に,日本の建築の先生方でその公募に残る人ってイメージできますか?
若い人にはそういう人材を目指してもらいたい,と思っているんです。自分もそうなりたいし。

12/20/2016

建築雑誌「建築学におけるグローバル化」

「今後の建築(材料)研究者についての意見」ロングバージョン

1.はじめに
今後、日本の大学の建築学科はどのようになっていくだろうか。日本の大学は、選択と淘汰を選ばず研究者の競争は抑制され茹で蛙状態に近いが、そろそろ選択と淘汰、しかもかなり厳しいものを選ばなくては国際的にも国内産業的にも必要とみなされないのではないか。そのためには長期的な方向性を設定した上で、中・短期的に選択と集中によって成果を評価しつつその結果を踏まえて動的に組織を変更できる柔軟性と意思を継続する強さが必要である。その長期的な目標として、一つは新しい建築のための開かれた研究フォーラムとしての建築学科、またもう一つはそれを水平展開する国内産業に根ざした建築学科が考えられる。今後の建築産業は国内市場の縮小と産業の海外市場への進出を考え、おそらく5%程度の大学が国際研究フォーラム型で研究と海外進出用の人材育成を、残りが国内人材育成のための国内産業型をとることになろう。私の意見はこの5%の国際研究フォーラム型の組織とそこで必要とされる研究者についての見解である。

2.概観
住宅建築はそこにある土地、地域、文化とともに発展してきた。材料はその地域にあるもので構造・環境・意匠を支えるものが利用され、構造はそこで課題となる自然災害、環境は一年を通じた気候の変化に対応することを目標とした。神社仏閣、城郭などは信ずるものへの厳かな気持ちや主の野心を渡来された技術により反映することもあって、新しい技術は先進的建築物でまずは試された。住宅建築は経済性を根拠に土地的な結びつきが強いものの、長期的には先進的建築を中心に国際的な技術動向の影響を受け、取捨選択後に緩やかに住宅建築技術に反映されてきた。すなわち、従前より一部の国際的なフォーラムと一般建築のための技術伝達を別のものとして機能させることは行われてきた。
戦後の、特に高度経済成長期以降の建築研究トレンドを外観するには、建築研究所から公開されている建築研究報告がよいかもしれない(http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/report.html、2016年9月25日確認)。ここで示されている研究課題は実に先進的で今日的である。性能設計手法、さまざまな外力に対する構造・材料開発、鉄筋コンクリート造建築物の超軽量・超高層化技術、アルカリシリカ反応を含む耐久性研究、いずれも数十年先を見据えた取り組みで、いずれもが今日の礎となっている。当時の研究者の国際性、先進性、創造性の素晴らしさがよく分かる。残念ながら2000年以降、さまざまな理由があるのだろうが、総合技術開発プロジェクトの数・密度は低下傾向にある。よく言われることだが、研究タイトルだけ確認すると、40年前の建築学会大会のなのか、2016年の大会なのかはほとんどわからない。現在の研究は過去のテーマで飽和し、新機軸があるとは言い難い。
この間の各研究テーマは、多分に国際的な動向を踏まえたビジョンの明確な研究が多い。ビジョンが具体的であり、それが日本に即したものであるほど国際的な名声を博している傾向がある。また、研究が国際的に評価されているものは、研究自体を国際的な場で発表されていたことに留意する必要があろう。当時の状況を察するに、極一部の研究者に情報・研究の集約が行われ、国立研究所(国研)の研究者が国際的な場でのプレゼンス向上に大きく貢献していた。現在の欧米の国研の多くも、国のプロジェクトを国研のチームが先導し、そこに大学の研究者が実質的な研究プレーヤーとして参画する。国研の研究者が国際的な情報収集・交換を行い全体のビジョン策定を行うとともに、プレゼンス向上のための発表を行っており、自由度の大きい国研の研究者の重要性は非常に高い。残念ながら日本の今の建築研究業界における状況とは大きく異なる状況となっている。

3.今後について
建築の多様化・国際化が著しくなっている今日において、建築技術が求められている分野は多い。宇宙構造物、洋上・海底構造物、大深度地下空間構造物、エネルギープラント構造物などがそれである。これらはテラフォーミング、資源・エネルギー開発、国土防衛などと密接に関わっており、いずれも将来の世界と日本において重要技術であるが、建築の技術者がイニシアチブを持つ場面は少ない。海外であれば、デザイナーだけでなく技術者自体もさまざまな将来ビジョンを競い合っている状況においていかにも寂しい状況である。また、材料開発においても、CO2低減の観点から、マグネシウムカーボネートハイドレイト、カルシウムサルフォアルミネート、カルサインドクレイなどを用いたセメントが開発され実用化寸前になっており、これらの中国、中東、アジアへの展開が進んでいるなか日本の研究者はほとんど関与していない。
ISOなどの標準化は、いかにも公平な形をとってはいるものの、実質上、デファクトスタンダードを公的に保護する新しい経済戦争の場となっている。このことを理解した対応が日本から取られているとは思われない。本来であれば、大学研究者、政府、材料開発を担う企業が一体となって販路を拡大できるように取り組むべきであるが、そういったビジョン、商材、ビジネスマインドがやや乏しいように見受けられる。材料開発研究は、大学研究者の場合、健全なビジネスマインドを伴って製品化、市場化、標準化、と段階を踏み産業に発展していくが、こうした適切な野心を工学研究の基本的動機として建築の場で学ぶことも日本では少なくなっている。模範的人物・事例が少ないからであろう。日本では研究と市場が乖離する傾向や規制のための実験が増える傾向がある一方、純基礎科学的研究も行われることが少ないため、工学的研究の名のもとに非常に偏った科学的見解が社会に展開される事例も散見されるようになってきた。科学的知見による前進さえも少ないのが現状である。この傾向は建築基準法の体系とも深くかかわっており、新素材開発コストが市場化の手前で大きいのが建材の特徴であり、その次においても、普及価格に持っていく道も険しい。
こうした状況を変化させるためには、規制緩和と責任の明確化、責任によって生ずるフィーの増大といった建築に関わる自由化が不可欠と思われるが、残念ながら日本社会が望まないのか、責任の所在はあいまいのままな体系が好まれる傾向にあるようだ。

大学の研究者や学生がどのような将来像を見ているのか、あるいは見るべきかは実に重要な課題となっている。学生諸君は現状に疑問を持ち、その因果関係を読み解き、そこにビジネスチャンスを見ることができるだろうか。
現在の建築学における課題の多くは、従来の建築産業内部に留まって解決できる課題ではなくなっている。都市規模の計画・開発では海外では商社が活躍し、建築設計のデジタル化ではGoogle社(正確にはスピンアウトしたFlux社)が人工知能やビッグデータを用い、法的問題も含めた住宅設計を実用化しつつある。材料開発はマテリアルサイエンス分野の研究であり、新しい建築の鍵は、今や常に建築の外にある。そのため、建築分野外との技術者・研究者と知見交換や協業がこれまで以上に必要とされており、そのためには基礎教養、すなわちリベラルアーツが必要不可欠となっている。数学・物理・科学・歴史・文化への深い洞察はどのレベルの建築研究にも必要である。また、研究者間において一定以上の技術上の知見交換には相互にWin-Winの関係を求められる。一段と深い「尖った」知識と実験データが必要不可欠であり、こうした「尖った」成果への執着や評価が建築界隈で重要視する必要がある。
新しい建築ビジョン策定や問題解決の観点から、国際的な人脈・研究ネットワークは重要である。特に先進的情報を分野を超えてタイムリーに確保できるネットワークを有するかどうかで研究成果やその評価は大きく変わる。世界の最先端研究は、選択と淘汰を受け極めて限られたものになりつつあるので、そうした研究拠点といかにネットワークを構築するかが重要である。欧米では大学間で優秀なポスドクやPh.D studentを交換したり、共同で教育・研究したりすることでネットワークを深めることも行われている。交換留学制度、JSPSの各種の留学制度や人材交流制度は、多面的・戦略的に運用すべきものであり、従来、属人的でああったこうしたネットワークも、国内研究者間で共有していくことが望ましい。日本でも、人の活用を真剣に考える必要がある。博士過程というのは、社会にとっても大学にとっても、知識を学生(=研究者)と生産する場であって、学生が授業料を払って学ぶ時代はとうの昔に終わっている。しかし、その認識さえ、博士学生を増やせという文部科学省は変えることができずにいる。

将来生き残る組織は、選択と集中、その裏で切り捨てを行う必要が出てくる。その根幹は、建築学が必要とされる社会、その時に必要となる技術と知識、組織が受けたい社会からの評価、輩出したい人材像、から導き出される将来像とそれを実現するための手段、とくに柔軟な人事と評価システム、である。そのためには、その組織の理念と哲学が必要である。オリジナリティを追求し、各大学がリトル東大ではない何かになることで、日本国の中における建築学の冗長性や柔軟性が獲得できる。差別化を恐れ、平等という名の均一化を保つことでは撤退戦を凌ぐことは残念ながら難しい。教育には連続性が、研究には飛躍が必要だが、我々は教育と研究を変える勇気が試されている。

最後に余計なお世話を。日本の建築若手研究者は、タイムリーに日本の研究を国研の研究者に伝達すること、国際Journal論文として引用可能な形に残しておくこと、そして国際的な委員会の場などで貸し借りを作っていくことがまずは大事である。国の税金で研究をしている以上、知識を日本国に反映することはもとより、国際的な社会でも貢献することが望まれている。それは、国際的な場での議論によりレバレッジを利かせて研究効率をあげることができるからである。既往の研究論文を読まず、40年前と同じテーマを同じ方法で取り組むために税金があるのではないし、素材を変えただけで新しいテーマだと臆面も無く言うことは成熟した国の研究者のやることではないことは知っておいてほしい。つねに前進とはなにかを自問してほしいし、その答えは論文の形であってほしい。そして少し成長したら、国のプロジェクトなどで国際共同研究を行うことや、分野を超えた研究者を率いた研究テーマに率先して提案してほしい。これらのポジションに立つ研究者になること自体が、一朝一夕にできるようなものではないが、まずは、一人の尖った研究者として認められることを目指したらどうだろうか。



11/16/2016

近況 20161116

さて、時間が立ってしまいました。最近の活動について、ざっと・・・。


10月26日にNIMS(Natioinal Institute of Material Science)で講演を行いました。セメント化学の知見がインフラや建築ストックの活用にどのように活かせるかということで、私の経験をもとにマルチスケールな視点の研究が重要であることがいかに大事か、という点で講演させていただきました。合わせて、NIMSの研究設備を拝見させていただき、従来、金属、複合材料、ポリマー、粘土などに利用されてきた研究設備は十分、セメント系材料の微細構造分析に利用できるということを議論しました。
次年度は、Richardson博士やMcDonald博士も来日していただけるという話もありますし、なんらか、東京でシンポジウムなどができたらよいな、と考えています。

10月から、ASRの影響を受けた構造解析に関する研究を受託することになりました。OECDのプロジェクトに規制庁が参加する関係で、私も少ないながら、知見貢献させていただくことになりました。あまり、難しいプログラムを開発することは考えておりませんが、シンプルで効果的なモデルの開発ができたらと思っております。

11月7日~11日は、名古屋大学で、International Committee on Irradiated Concreteを開催いたしました。今回は、8カ国、33名の参加がありました。9日には浜岡原子力発電所で行われているコンクリートプロジェクトに関連して視察を行い、地方紙にもその件が取材されたりと、アクティブな活動を行いました。また、次年度の開催はチェコに決まりました。同じテーマを3日間みっちりと議論するというスタイルは、かなり、効果的です。研究者間が打ち解けて、かなり率直な議論ができますし、誰がどういうことを考えているか、もよくわかります。また、今回は、米国、スペイン、日本の規制庁にも参加してもらったので、今行っている研究がどのように規制に反映されうるか、今何がわかっていなくて、今後なにを研究しなくてはいけないか、など今後の方針なども議論されました。

この間、裏では二国間、多国間の共同研究打合せも裏で行われ、日本としても複数の国と共同研究の可能性について打合せしました。
また、EU,米国などで実施される大型プロジェクトの情報なども入ってきました。全部で6つくらい伺ったと思いますが、そのなかの幾つかについては、コンサルタントの形で参加することになりそうです。研究の実施者というよりは、有識者として研究をガイドすることでも国際貢献できるのは光栄なことです。

さて、一方で、2本の論文が公開になりました。


Multi-scale Review for Possible Mechanisms of Natural Frequency Change
of Reinforced Concrete Structures under an Ordinary Drying Condition
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/14/11/14_691/_article

この論文は、構造物の固有周期が変化する要因として考えられる原因を原子スケールからメータースケールの問題までマルチスケールでレビューし、なにかを議論したものです。また、それぞれのスケールでどのような研究が今後必要なのかについても明らかにしました。そもそも、原子スケールの研究と実際の構造物のスケールをどのようにリンクすべきかはずっと頭の中にあったのですが、それをやっと文章の形でまとめることができました。個人的には結構気に入っている論文です。



Change in Relative Density of Natural Rock Minerals Due to Electron Irradiation
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/14/11/14_706/_article

こちらの論文は、電子線照射によって岩石鉱物のメタミクト化(アモルファス化、結晶が壊れる現象)について議論したものです。長石類も体積膨張する点、粘土鉱物であっても堆積膨張する点があきらかになったこと、電子線照射によって得られた状況と中性子照射によって得られた体積は大きくことなること、照射の最中のThermal Annealingの影響が非常に重要であることなどを議論した最初の論文といえます。名大の武藤先生と昨年からコラボさせていただいた研究が早速花開きました。
放射線影響下におけるコンクリートについても重要な知見を与えています。


10/22/2016

近況 20161022

職位がかわったからといって、突然何かが変わるものでもありませんし、仕事がかわるものでもありません。とはいいつつも、周りの状況は刻一刻とかわっており、研究状況も含めて猛烈な変化があってちょっと動揺しています。

研究上での進捗を中心として、近況は以下のような感じです。

1.Small Angle X-ray Scatteringを用いて、セメント硬化体中の乾燥時のC-S-Hの凝集構造の変化について議論しました。同様な論文は、Chiangらのものがあるのですが、かれらは、WAXS領域を測定していませんし、どういうわけか彼らが指摘するピークはどうやっても出てきません。そのため、別の観点からの議論を行って、Discフラクタルモデルを用いることで、C-S-Hの凝集構造の変化とその中に存在する層状構造が乾燥時に動的に変化するデータを示すことに成功しました。

Microstructural changes in white Portland cement paste under the first drying process evaluated by WAXS, SAXS, and USAXS
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008884616301144

共同研究を実施していただいた、共著者の旭化成の松井さん、坂本さんには足掛け6年の長きに渡り、測定、議論をさせていただき感謝申し上げます。本当に長かった。

2.英国で実施した、1H-NMRのCPMGシーケンスについてやっと名大で測定が可能になりました。これでさまざまなデータについて議論ができます。英国で議論した際、ハイデルベルグが出しているホワイトセメントのFeの量が議論になりました。日本の太平洋セメント社(今は、海外産に変化してしまった。)のホワイトセメントは、Feの含有量が小さく、NMR測定にベストな製品と考えられます。研究用途に使うのは想定外かもしれませんが、非常に貴重な研究リソースを失ったのは大変残念です。

3.M2の張くんの研究で、やっとマスコンのひび割れ予測が有限要素法でできるようになりました。破壊エネルギーの時間依存性と塑性変形の考え方、また、温度履歴に依存する物性を適切に評価すると、予測できるという結果になりました。現実をどれだけモデリングするか、というのは常に課題になるのですが、面倒くさがり屋の私共としては、これはどうも考えなくてはいけない、というギリギリのところの現象がいくつかあきらかになったので、論文化できると考えています。Concrack5で概要を発表します。

4.時間と体調マネジメントは常に重要な課題です。もう、無理な会合は無理と言って休まないとこわいことになってしまいます。関係者のみなまさ、ご迷惑をおかけしますが、どうか、ご了承のほどお願い申し上げます。

5.私は音が苦手でした。とくに読書や研究の作業をしているときの音楽は邪魔でしかありません。ただ、最近、電車を含めた公共機関の輸送での騒音がかなり自分の心理面のストレスになっていることを発見しました。(その傾向は飛行機の耳栓で感じてはいたのですが・・・。)その為、移動時に音楽を聞くようになりました。40年生きてきて新しい展開で自分でも驚いています。

6.移動時に論文を読むことが多かったのですが、これですと自分の知識が絞られるばっかりで、なんだか人間ちっちゃくなってしまいそうなので、小説や新書を読むように変えました。論文は大学の作業の合間に読むようになりました。最近読んだのは、村上春樹の「女のいない男たち」でした。久しぶりの短編集です。ねじまき鳥クロニクルあたりから、男女間の絶望的な境遇について記載される傾向が増えてきていましたが、これはその濃縮版です。基本的にスタンスが諦観からスタートしているので、テンションによっては読めないものもあったのですが、最近読了しました。
人間関係には不可逆なものが多く、ターニングポイントは日常に沢山転がっています。自分のどうしようもない怒りとか、欲望とか、野心とか、そういったものを客観視しなくてはいけないと思ってもできない状況を村上春樹の言葉で置き換えて説明してもらったようです。ただ、もちろん解決にはならない。40もすぎると、いろんな哀しいことも起きるようになりますが、そういうのはどうやって体に馴染むのを待てるようになるんでしょうかね。

10/15/2016

ご報告

遅くなりましたが、この度、同じ所属する大学で教授となりました。引続き、トゲトゲした研究ができるよう、頑張ってまいります。

今後の豊富としては大学も生き残りをかけた撤退戦の序盤戦がそろそろおわりそうな感じですが、今後の中盤戦に向けた議論と方針作成、全体の戦略について思うところがありますので、みなさまと議論していきながら、未来に向けて耀環境をもつ大学に少しづつ努力したいと考えております。

研究面においては、建築材料学、セメント科学といった閉じた社会ではなく、他の分野とのコラボレーションができるような基礎環境の醸成とコラボレーションによる実績を積み重ねたいと考えております。近々の研究分野としては、岩石の放射線によるメタミクト化、コンクリーションメカニズムの解明と応用、無機材料におけるマルチスケールシミュレーション、触媒、などがテーマになっておりますから、その点で一つ一つを大事に成果を出し続けていきたいと思います。また、国際的な研究ネットワークもでき始めていますので、そういった中でのより先端的な研究とそれを通じた学生教育に邁進したいと考えています。

社会連携・貢献においては、私の研究者としての立ち位置も概ね見えてきたところでもあり、また、今後は人が少なくなることから、他の人とかぶるようなことはあまりしないでおこうかと考えています。それぞれが、自分の良さ、強み、そして適合性を勘案して楽しく邁進できる方向性を模索したいところです。前時代的に、皆が順番になにか上の人間に指名されて労働が課されるというような形のルールについては、今後は学内も含めて問題点をあきらかにし、重要性とのバランスで実施の意義、重要性、必要性の観点から見直しを勧め、みなが適切に前に進められる条件を見定めながら、前向きな活動をしていきたいと思います。

今後とも、どうぞ、よろしくお願いいたします。


10/06/2016

英国出張

おそくなってしまいましたが、9月11日から23日まで英国出張に行ってまいりました。9日からいくはずだったのが、8日にアクシデントがあり、急なフライトの変更を余儀なくされました。みなさん、体調管理には気をつけましょう。

英国は、最初の1週間にSurreyとLondonに滞在しまして、1H-NMRの分析技術を学びにSurrey大学のMcDonald先生のところに滞在しました。今回の滞在は、Daiwa-Foundationの支援を受けました。
非常に懇切丁寧に実験方法とメカニズムについてレクチャーを受けました。
13日はミニシンポを行い、Gartner博士、Vandamme先生、Muller博士、Hong博士、らと意見交換を行いました。Muller博士と仲良くなれたのは非常にラッキーでした。
翌日は、LondonのImperial Collegeでクリープ現象に関するWSを行い、マイクロインデンテーション技術の応用を始め、多くの実験データについて議論を行いました。午後は市内観光。
翌日は、Surrey大学で、EPFLのScrivener先生にお会いして、最近、Gartner博士と共著で論文を投稿した新しいC-S-Hモデル、および、SAXSを始めとした乾燥時のセメントの変質に関するデータの説明を行い、議論を行いました。EPFLでの現在進行中のプロジェクト、投稿予定の論文についてご教示いただくとともに、ほぼ同様なモデルが議論されていることを知って驚きました。
加えて、最新のEUの研究知見と過去の論文の批評などを伺い、日本とはまったく違うレベルで議論が進行していることを、あらためて認識しました。年に1回は、EUを回って研究知見を自分の足で稼がなくては、そして、自分のネットワークをつくって常に研究データや論文が回ってくるようにならなくては、日本の中だけで研究していてもまったくだめなことがあらためて理解できました。

Surrey大学の次は、Aberdeen大学に移動し、Glasser先生やMacphee先生と意見交換を行いました。新しいセメントのプロジェクトで、現在、カタールにパイロットプラントを建設中のもののご研究や、ガラスの溶解速度、触媒反応に関する研究などについて意見交換をさせていただきました。また、地質学者の方とも議論が行えましたし、多くのネットワークづくりができました。

その後、Leeds大学に移動し、Richardson先生とC-S-Hモデルについての議論を行いました。結晶学的な欠陥と実際のC-S-Hを結晶として考えてよいかについては、かなり異なる見解ではありましたが、多くのことを優しく説明いただきました。

Richardson先生とMcDonald先生は2017年度に来日していただけるということなので、今後、日本においてもなんらかのイベントができたら、と考えている次第です。

8/26/2016

AIJ雑感

今年、2回目の博多です。AIJ大会があり、博多で3日間を過ごしました。大会中は、学会会場と研究打ち合わせ半々くらいで参加でした。会場では、材料部門と構造部門で好きなところに参加しました。

材料部門の発表を見ていると、新しいことはほとんどないものの、ものすごい量の実験データが示されており、これが業界の知見共有にやくだっているんだろうな、と思います。残念なのは、最先端知見のReviewはほとんどされてなく、自分のやっていることの研究の位置づけが明快でなく、夏休み自由研究的なものが多い点です。大学研究でもそうなので、ましてや企業の研究をや。

(企業の研究は、規制基準類に立脚しているデータどりなので、研究というよりは、根拠データ取得というものですね。)

こういうのを見ていると、建築産業は亡くならなくても、建築研究とか建築学はなくなっちゃうんだろうな、と思います。かりそめにも大学という名を冠していて、自分の研究の位置づけが不明、というのは大変残念です。また、そこにそれなりの国家予算と労働が使われているところが物悲しい。
研究といいはる以上、最先端知見をReviewし、位置づけを明快にし、オリジナリティを示す。それができていないのは、学問となっていないので深化の方向とビジョンが明快になっていない、知見交換が国際化されていないからだろうと思います。
だから、あいも変わらず、傲慢な先生を筆頭に宗教がスタートします。

もちろん頑張っている人もいるとおもうんだけど、これでは建築学、建築材料学はそのまま衰退しちゃうんじゃないか、というのを強く印象付けられました。科学的知見に立脚した議論ができず、傲慢な過去の知見を振りかざすお年寄りが偉そうにしている大会に未来はないでしょう。
今年は、ひときわ見ていて辛かったです。

学問であるならば、知見の解明や新現象の発見が主体となり、それを目的とするならコラボレーションはすみやかに進むはずです。でもそうならない。それは、国際化していなく、傲慢な研究者がいいぱなしで持論を曲げず、科学的議論ができないから。そういう業界は真剣な若い研究者に対して魅力がなくなるでしょう。人がいなくなって当然です。

ワクワクする建築とは、程遠い。
今、教授の先生方自体があの場にいて疑問に主なわないのは大変残念だと思います。


8/16/2016

成果を急ぐということ

国のプロジェクトを受託するとリーダーが急激に人格がかわる、ということは良くあります。それは多額の研究をもらうことで責任がひときわ大きくなることと、出資側の役人が(財務省や国民に対してわかりやすい)成果を早めに求めるからです。
地道にやってきて、成果がつもり、人に認められるようになって大型プロジェクトリーダーに収まるというのは大学研究者として我が国では成功コースのように考えられますが、本当にそうなのかは実に考えものです。
特に日本の工学分野、あるいは建築・土木分野のやってきたことというのは、他分野で開発された材料や工法を転用して、JIS化したり、大臣認定、施工実験を行って実務に反映させるということが研究部門のやることだったので、そもそも画期的な開発行為というのは、施工、構造、コンクリート等の一部の分野に限定される傾向があります。構造部門は新材料が無いとたらしい構法は出てこないし、耐震ということはほとんどやり尽くした感があります。施工はまだ、合理化の余地がありそうです。材料開発は、結局、多くが他分野からのお下がりです。

材料科学に目を転じると、現代の新材開発には多くの基礎研究が基盤となっています。高分子の設計には、分子動力学があたりまえに使われるし、第一原理計算も当然のように利用されます。材料の分析技術も同様で、原子一つの挙動まで理解されて議論されていることが良くあります。実はセメント分野も2000年台初頭からEUでなNanocemプロジェクトがあり、多くのことがあきらかになりつつあります。特に英国や北欧を中心に熱力学平衡計算、NMRによる構造解析などが進んでいた土壌があり、そこに合目的的に成果を出すNanocemプロジェクトが民間資本をベースとしてすすんだこどで、材料設計手法、性能評価/予測手法が構築され、多くに利用されていますが、残念ながら日本ではほとんどキャッチアップできていません。

すくなくとも、欧州のメーカーと同程度の開発能力を持つ部門をつくるのに7年必要だと私は考えます。その上で現状の課題で成果を出すのに2年。予算はおそらく10億くらいで少数精鋭でやればそれなりになるでしょう。でも、大事なのはそれが普及し、普遍化し、そこかしこでそういうった科学的事実にもとづき議論できることが業界の標準になることですが、これには20年はかかるでしょう。国際化じゃなくて、完全に戦後2回目の追いつき政策ですが、それもやむなしと思います。

こうした事実関係を無視して、すぐに成果を、といいだすリーダーは危険です。現場の兵隊と作戦本部には議論が必要で、現場の課題を把握してもらう必要があるのは第2次世界大戦から変わっていません。官僚化する教員、あるいは現役で自分で論文を書けない教員が増えるので、こうなるのでしょうが、それを止めるのが地方大学教員だと認識しています。

がんばってまいりましょう。

8/11/2016

工学といういいわけ。

工学だから、ということを言い訳に、ものの成り立ちを理解しようとしない、原理原則から目を背ける、今まである解釈に固執して他を排除するっていうのは正しくないんじゃないでしょうか。 50年後によりよいものをつくる、次の世代に正しいものづくりを伝える、ものの成り立ちとその原理を明らかにしておくということは遠回りのようでいて、もっと素晴らしい建築とか社会基盤を作る上で大事なことなんじゃないでしょうか。 工学である以上、わからないことを考えてものを作る前進が前提なのはわかります。でも、だからといって、ものを理解しようとしないっていうのはやっぱり間違っているように思います。両者があって社会の両輪なんじゃないでしょうか。
最近、セメント新聞で二人のゼネコンの人がセメント化学は意味が無いと言い切りましたが、そもそも建設に携わる人間として、将来に伝えるための責任が欠如しているんじゃないでしょうか。これは別にお二方、っていうよりも、もう業界自体がそう考えているっていうこと事態の問題です。まるでそれが当然ともいう言い切りに釈然としていませんでしたが、昨日、金子先生と議論して日本にかけているもの、今の日本の問題そのものだったんだと思います。
そうじゃないという意見もあるかもしれないですけど、実用偏重、すぐでる結果偏重、その場をやり過ごすっていうのが多いような気がします。わからないものをわからないということも重要だし、それを受け入れる社会も大事、そしてそれを理解するよう社会として取り組んでより良くしていくことも大事。

私は100年後に繋がる研究がしたいです。自分の子供の世代のために。

8/10/2016

信州大学

8月10日は、信州大学の金子克美先生を訪ねて長野に来ました。金子先生はググってもらえばわかりますが、日本を代表する吸着、カーボン、ナノ材料の研究者です。セメント系材料での問題点などを知ってもらいたいとおもって張り切ってやってまいりましたけど、その圧倒的な研究力と成果に、圧倒されました。

今回は、研究をレビューしてもらい、少しの前進ときっかけを与えてもらいました。金子先生が、Pellenq先生とインペリアル・カレッジでかぶっていたとか、彼の研究の大本は何かとかをご存知で、今の英国とMITの論争がこうかんがえたらひもとけるんじゃないかな、っていうものも少し得ることができました。

一番大事なのはこの期に及んでこれで良いんだろうかっていう疑問を与えてもらったことです。焦ってもだめだけど、もっと先を考えないと駄目だなっていう。

・足元も大事だけど、顔を上げて先を見る研究を。
・基礎から応用にいっきにける研究材料を見つける。
・情報が集まるようにデータを出し、議論する。多くの人に研究をみてもらう。

世界の巨人に会えて、また一つ気づきを得ました。

オープンキャンパスとか

8月8日はオープンキャンパス、9日はテクノサイエンスセミナーといことで、8日は構造系の紹介担当、9日は全体取りまとめ役ということで、いろいろ参加させてもらいました。例年はもうすこし、フレッシュな感じで感想をもってたんだけど、今年はあまり感じることがなかったなあ。
高校生でカッターの使い方もおぼつかない子がいてびっくりしたとか、物理が好きですってこが二人もいて、今の物理ってどうなっているんだろう、とか、そんな感じでした。

本当は9日に打ち上げする予定が、8日でもうつかれきって、つい空きっ腹にワインを入れてしまい本当にもうどうしょうもないくらい酔っ払ってしまった。毎回形だけの反省をするんだけど、全然反省になってない。40になって限界を感じております。

8/07/2016

8月

8月って通常は院試だけがんばれば,わりと頭の整理ができる時間だったのに,最近はいろんな入試が増えていたり,オープンキャンパスとか,スーパーサイエンスハイスクールだったりとか,テクノサイエンスセミナだったりとか,名前と内容がよくわからないイベントがもりだくさんです。役割分担数が数として平等なので小さいFacultyからどんどん疲弊していっています。そして,役割がまわってくる若手が見るも無惨に研究ができていなくて,これまた,将来本当に大丈夫なんだろうか,っていう事例が多く見られる。

毎年,大学に文部科学省から払われる基盤的経費(運営費交付金という)についても,確実に2%とか3%減額されている(そもそもそういう約束だった。根拠は人口動態に対応しているんだと思う。)のだが,一方で,いろいろやってほしいことがたくさんあるらしくて,押しつけのイベントがすっごく多い。別に断れば良いんだと思うんだけど,教員と事務と執行部で考えていることはそれぞれちがっているので,かならずしも断れるものでもないみたい。

大学として,この衰退期に必要な方向性とか,縮退/発展のあり方とか,ルールの簡素化,個人個人の能力の引き出し方を議論して,文部科学省にはこういう方向でやります,っていいきれればそれはそれでよいんだし,能力を活かして好きなことをやりつつ成果を出すような形を描いていければよいんだけど,鶏と卵のどっちかっていうのは別として,一回受け入れてそれに対応しようとすると,その後の時間を捻出できなくて,ずっと後出しで負け続けるという負の連鎖がとまらない大学が多数あります。名大も一部はそういうところあるかな。

最近の事例でいくと,人事凍結っていうことで,建築系・土木系で人事が大学として留められている場所がかなり増えている。東海圏で有名な大学も,新潟の雄も,国公立大学で経理の運営をミスると本当にすごいことがおきるというのが実例として起きてしまっている。
そういう意味では,うまくいっている大学は定員を開けて運用することを行って,運営費交付金の減額と人員のバランスをとる計画を立てて運用しており,その点では名大は事務がしっかりしていてうまくいっているように見受けられる。

一応,日本の叡智を結集しているはずの小さな社会である大学でこのありさまなので,ダイバーシティが非常に大きいところで,日本はどうするかっていうのは本当に難しい問題なんだな,と思う。

もちろん,この混乱には世代間の危機意識の差が大きい。いままでの歴史の成功例をかたくなに守ろうという(そしてそれは当然今後には役立たない。)成功体験を抱えて大学を去ろうとしている年代とその下の危機意識の共有状況は大きく異なる。
もっとも雑用に追われている中堅どころ,というのは池井戸潤の言う,ロスジェネに相当していて,まだ,多くは教授職じゃないだろう。まわりではその世代の教授昇任がかなり増えているけれども。で,教授職でない場合には人事権も無い状態が一般的で,組織を変える根幹である人事権が無い状態で意見だけをいっても,その組織は空回りになってしまうだけなわけで。
権利と責任が一体になってこそ,そこに人材がいれば,社会が回転し始めるというわけですが,権利は確保して,責任は君ねとか,やることやっておいてね,というのがそこかしこで,(先の公益社団法人における委員会でも)みられるわけで,これはちょっとしんどいよなあと思われます。

一番つらいのは,当事者は全然そういう問題意識をもっていなくて,自分たちもそうだったからそうしているっていうだけで,人としては寧ろ良識的な人も,そういう問題点を無意識につくってしまっている,というところだろう。
もう,5年くらいすると主役が大分がらっとかわるんで,そのときにしがらみを切ろうかなっておもう,我々のまわりの世代がどの程度のこっているかっていうところが面白いんじゃ無いかと思います。


まあ,それで,日帰りで名古屋にもどってこざるをえなくて,一日中,高校生向けイベントのスケジュールを1から点検っていう,なんとももの悲しい日曜日を送っているわけです。でも,まあ,私の場合,まだ恵まれている方です。他の大学の方々と比較すると。
池井戸潤っていうのも世代間の違いとか,怒りとか,よくわってんなあ,と。スターウォーズのエピソードIIIもその辺と絡んでいて共感できる。


こんな晴れた日に昼から,屋外で飲めたら楽しいだろうになぁ・・・。


東京往復

本日は、車で東京に行きました。新東名が延伸して、ほとんどを新東名で走りましたが、これはすごい。所要時間が1時間ほど短縮してます。経路も短くなっているし、車線幅員も大きいのでストレスが少ない。
自分の車、とくに車体の剛性とタイヤの調子がいまいちなので、うるさくなってしまってストレスが大きいけど、運転に関するストレスは格段に減ってる。
東名に入った時のがっかり具合がすごい。こんな狭い道ではしらせるなんて。。。という気分になる。

住宅もそうなんですが、もう少しゆとりあるように作ると、維持管理もし易いし、したくもなるし、資産価値もキープできるんですよね。
今ある状況にピッタリなものをつくっちゃうと、後が大変ってことです。先も含めてゆとりあるものをつくっておくと、ちょっとのコストで結構、大きな利幅になる。
みんなわかっているのに、銀行とか、財務省とか、わかってくれなくて世の中が少しずつゆがんでしまう。

小さなボタンの掛け違いで、すっごく世の中全体が損している部分が結構あって、もったいないなと思う。

で,最終で名古屋に私だけ帰ってくるのはものすごく寂しいです。

8/04/2016

お題:セメント化学的研究


気にするに決まってるじゃないですか。なんですかそれは・・・・。


ども。夏休みに入りました。世の中は。成績づけと雑用と雑用と雑用をやると、おそらく9月になります。あ、建築学会@博多を忘れてました。そんな感じです。

さて、光栄なことに某所から、土木建築業界に必要なセメント化学/材料科学的な研究をいかにもりあげるか、というお題をいただきました。普段からも考えているところでもあるんですが、なかなか一般の建築土木業界じゃ見向きもされないかな、というのが率直な感想です。

私は別に日本のセメント化学というローカル学問分野を保持することを目的に研究しているわけでもなく、必要だから、ということと自分で理解して納得したいからそういった系統の研究をしています。そもそも、今の私の研究の多くは、ある問題について私を頼ってくれたからそれに答えようとやっているというものばっかりで、自分のやりたい研究をやっているわけではありません。だから、これといって深い思想があるわけでもない。(原理はありますよ。研究原理。)

原子力業界は軍事業界と同じくリミットがありません。安全のために最善を尽くすべきであり、理解していないものについては大幅なマージンをのせなくてはなりません。だから、理解する、説明する、説得力があがる、そういったことにそれなりの予算がつきます。
私はそもそも原理原則にのっとってものを理解したいので、昔からちょっとは(研究については)細かい性格でしたけど、それが大事にされたのはこの業界に触れてからです。今の私のやっていることを普通の建築の人がみたら、なんでそんなことを、と思うに決まっています。だって、すでに法律があって、指針があって、建築が建ってて、時々地震でこわれるけど多くは問題なく建築はできているわけです。なにをいまさらやるんですかって言われても、ほうそうですか、としか答えられません。

工学っていうのは理解していないものでも、つくって人間の役に立てる学問です。線を引いて、安全率をとって、実用化していく。そこに責任が生じ、人による個性がでて、そしてお金が動く。
ルールが一般化・陳腐化して普遍化すると、利益率はヘリ、コモディティ化していく。普通の商品と同じです。そして、建築はほぼその領域になりつつある。
ただ、理解されていないことは多い。コンクリートなんて穴がいっぱいで水もいっぱい入っていて、それで強度がどうして出るのかよくわかっていない。でも、100年の歴史があって、設計ができる。学問的にはやることはあるけど、実業界からはなにも要求されない。社会が大学の先生を要求するのはJISをくぐるために同意をとったり、大量のデータをとって線を引くときだけ。そんな業界なわけです。
そんなところにセメント化学なんてこれっぽっちも必要とされていません。

業界は、材料会社はセメントが売れたらOK、施工会社は瑕疵保証期間を切り抜けたらOK、設計者・監理者は文句がいわれないように作れたらOK,それでお金が動き、消費されていく。
これはね、なにもないですよ。

たとえば、ここにそういったニーズを掘り起こすなら業界の責任体系とお金の発生する場所を変化させるしかない。あるいは顧客に対する信頼というものをなんらか制度化していくしかない。
土木で考えれば、100年もったかどうかをかならずチェックしてそれが会社の成績になっていくようなしくみを制度化すれば、みな、施工ばっかりじゃなくて、耐久性もちゃんと考えるでしょう。
でも、そのためにグローバル経済における私企業の位置づけ,はなかなかに大変。すぐに会社はつぶれちゃう。合法的に。そして責任も解消される。

以前に姉歯事件のときにも、談合の問題を記載したときにも書きましたが、建築・土木っていうのは使うお金が大きすぎる。だから、一回の利益で会社をつぶしてしまっても、なんとかなる場合がある。大きなお金と責任を社会制度としてどう実装するかはまだ資本主義として解決できていない問題。大銀行を潰せないのと同じ。大きなお金を借りるでも持っているでも、なんらか責任を関与するともはやその人は殺せなくなる。理由は、影響がおおきくなりすぎるから。人に迷惑をかけるから、政府が介入してしまう。銀行のこの問題と同じ構造を建築・土木ももっている。この問題が解決できないかぎりは、責任とそれに伴うお金の議論ができない。

同じく,お金の動きとものの寿命が違い過ぎる。耐用年数100年の成果物の評価を対価にどうしても反映できない。もう,減価償却100年といいきれるなら,なんとかなるんだろうか。でも,住宅も30年でもそうなってないしな・・・。

価格が大きいこと,寿命および評価期間が長いこと,この二つと今の経済ルール,利益算出ルールがマッチしていない。


たとえば、土木インフラの社会性信頼の向上を目的としてゼネコンが材料メーカー(セメント会社)を買収する。設計と材料開発、維持管理を一気通貫で行い、ライフサイクルコストとCO2を格段に落として社会的信頼を構築することで、市場に優位に働こうという考えは、原理的にはありえなくはない。
特に過当競争の今ならそういう市場再編とともに政治家を動かせば、ある種、面白いことができる可能性は高い。だけど、この付加価値を正当に評価できるほど社会が成熟してない、と思う。そもそも財務省がついていかないし、一般消費者も理解できない。残念ながら。
なので、セメント化学は今の市場原理を前提とすると根付かない。

というのが今日までの整理。この次の一手について、AIJ大会くらいまでに1,2回は考える時間があるだろう。頭の体操。









8/01/2016

中間報告

今日は、規制庁の受託研究の中間報告でした。

朝5時半起きはしんどいのですが、土日のどっちかはフルタイムで業務を行わないと全体がまわらなくなってしまっています。本当に1秒1秒が惜しい。かといってマシンのようにキッチリ動けるわけでもなく。
昔、大学の偉い先生がおっしゃっていた、最後はお金じゃなくて時間だよっていうのが身にしみます。お金は時間で買うっていう。残念ながら未熟ゆえにフンダンにあるわけでないので、時として自分の時間を身を削って差し出すことになるわけですが、これがまた物哀しい・・・。自分に対するマネジメント不足ですね。
学生とも時間に対する価値観がひろがりつつあって、戸惑うことも少なくありません。

いや、話が横にずれた。

最近の研究動向(あいまいにしかかけませんが、)
・ガンマ線照射における物性変化のメカニズムがペーストの照射後詳細分析でわかりつつあります。特定の条件だけ、特定の変化が起こるという特異なものですが重要な知見だと思われます。この成果は規制案に反映される予定です。
・中性子照射における物性変化も大分わかってきました。そして、理論的にそりゃそうだよな、ってことがやっぱり起きていて、まだまだ検討の余地があるな、という状況。

もう、あと4年くらいやれば相当にわかると思うんだけどな。なんとか後継プロジェクトを育てたいです。みなさんのご協力をいただけたら、と思います。


7/28/2016

Windows 10

最近,Windows 10のMobile phoneを購入してみました。電話としては利用してませんが,いろいろ便利です。恥ずかしながら,初のスマホです。
購入してみてよかったな,と思うのは案外Windows 10は良いかもしれない,ということがわかったことです。

まわりのOSは,すべてWindows 7で十分と思っていました。あるいは,アップデート自体が問題になるとまた,数時間費やすことになるのでそのリスクが怖い,ということです。

また,USBメモリのファイル保存に関してフォーマットが,Windows10とWindows7では互換性が無く,ディスクの取り外しを行って互換性を担保するものに書き換えをしなければ,USBメモリが破壊してしまうという情報もあり,身の回りのOSを全部固定しておくほうが安全,という考えもありました。

でも,案外つかってみてよかったので,身の回りをWindows 10側でそろえるという決断をやっと昨日からできまして,順次アップグレードをしております。タッチパネルのついているノートPCはそれなりに快適です。デスクトップでよいところあるか,と言われると見た目が少しよくなったかな,程度ではあるのですが・・・。

というわけで,今も夜なべして家のデスクトップPCをアップグレード中です。



7/27/2016

かご

同じかごに卵を盛るな,という格言にしたがって,自分の研究が一つの分野にかたやらないようにバランスをとっておりましたが,どうも原子力建築分野に偏っておりまして,最近再編を行っています。

それは,特に現在のような研究背景をもと土木建築分野であると,同じ場所から見える景色というのはどうしてもかたまってしまうので,いろんな人とのコラボレーションの可能性を広げる上でも,なるべく多くの人の意見が聞けるプロジェクトのそばにいたい,という思いがあります。

最近は,文部科学省系のプロジェクトとして,科研というのがありますけれども,基盤Sの大型プロジェクトとして,名古屋市大の青木先生のものがあります。「歴史的建造物のオーセンティシティと耐震性確保のための保存再生技術の開発」というなかなか壮大なテーマでして,自分がこれに何が貢献できるかは別として,全体的なとりまとめ方向についてはやはり考えてみたいテーマがいくつかあります。
個別要素としては,塩類風化,特に過飽和状態からの結晶成長圧とか破壊と結晶成長のダイナミクスとか,そういったものに興味があります。セメント系に戻ればDEFの問題などと同じ研究課題(違う点もありますが,それについてはまた別に話をしたいです。)になるわけで,実験系としてシンプルなものができるのかな,と。京大の先生とのコラボも期待できそうなので,非常に頭が刺激されます。

また,一方の基盤Aのプロジェクトとしては,京大構造系の荒木先生の分担もやらせていただき,ジオポリマー(というか,アルカリ活性硬化体ですね。)について少し手をだしました。ようは副産物をどのような速度でどのように溶かして析出させるか,という技術なわけですが,これをポリマー化までもっていくことの技術の整備と,硬化体の良しあしについては議論しておいたほうがよいかな,と思います。

その他,地質分野の多くの方とやらせていただいてるコンクリーションや化石に関する研究は,また,別の面白い展開になってきています。

その他,こまごまといえば,
・セメント関係では,収縮低減剤の作用メカニズムに関するフランスとの国際共同研究はいよいよ佳境に入ってきました。
・9月には英国に2週間滞在する予定となっていますが,Surray大学をはじめとして1H-NMR-Relaxometryに関する共同研究を実施するとともに,C-S-Hの結晶構造に関する議論を深めてきます。また,このテーマについては千葉大学の大窪先生ともすでに2年ほど実験をやらせていただいて,やっと佳境に入っているところでもあります。(長かった・・・)
・チェコ工科大とは,補修材に関する共同研究とその他,数値解析手法の開発について研究を進めています。

などなど,大型のプロジェクトを原子力建築分野で実施する一方,ここ1,2年は他分野との協業,国際共同研究,などフレームワークとして多様化するとともに,研究テーマもさまざに広げていきたいと思います。

といっても,研究室のマンパワー的にはほぼパンパンなんで,どうしたものかな,とは思っているんですが・・・。


7/26/2016

学振76委員会 講演

昨日,76委員会でお題をいただき講演をさせてもらいました。内容は,最近の数値解析技術について,水和反応から物性予測までを,ということでした。

私自身,最近は再び数値解析を用いた論文も何本か投稿している人間ではありますが,数値解析の原理とそれにとりまとめるまでの縮約にいろいろある限界について考えることが多く,また,それに対応した実験もできていない部分がおおいので,むしろお題をするほど偉そうなことはいえず,むしろ苦悩しているという状況なので,講演としては難産でした。

結局,素直に現状のState of the art的なものにして,日本がトレースしていない状況,何か課題なのか,ということについてアラカルト的に紹介することにしました。

でも,本当に伝えたかったことは,数値解析をつかうためにも,いや学問としてコンクリートを考える上でも,最も大事なことは以下のようなことなんじゃないか,ということです。

データをとって線をひき,安全率を考えて設計することには一定の価値があることは認めます。しかし,それはもはや設計行為であって工学的研究であはりません。新しいデータをとって,プロットして,また線を引くことになんの進歩があるのでしょうか。データを取るたびに新しく線を引くのでしょうか。

人件費を考えれば,毎年数十億円の研究費が毎年我々の関連分野で使われているわけですが,そこでセメント化学・コンクリート工学でなにが進歩しているのか,そういう形で批判をしている研究者はいるでしょうか。

科学的なマインドなく,後戻りの無い成果がほんの一握りでもあれば,そこは足場となるわけです。足場なく,上の建物をつんでも,それは砂上の楼閣です。日本のコンクリート工学は砂上の楼閣になりつつあります。コンクリート工学内で議論している用語は,他分野で使われているでしょうか。他の工学・科学分野と共通の言葉を使い,お互いの科学的進歩を分かち合い,前身をつづける学問分野になっていますでしょうか。

同席していた東大・石田先生とも話をしましたが,コンクリート工学分野は,あるいは建築・土木分野は自分たちだけで閉じた世界を築きつつあるのではないでしょうか。

毎年使う研究費の10%でもよいので,足場をつくる研究,後戻りの無い研究,前進のための研究に使われることを心から望みます。また,私は,そういう観点で研究を進め続けようと改めて思いました。

7/12/2016

Review of the Current State of Knowledge on the Effects of Radiation on Concrete

コンクリートの放射線劣化に関する課題と各国の取り組み,および国際的なとりくみについてとりまとめたReview論文が,Journal of Advanced Concrete Technologyに掲載されました。[リンク]

いろんな課題が整理されています。最近の関連の文献を紐解くには便利なReviewになっていると思います。もし,ご興味があれば御覧ください。

Review of the Current State of Knowledge on the Effects of Radiation on Concrete
Thomas M. Rosseel, Ippei Maruyama, Yann Le Pape, Osamu Kontani, Alain B. Giorla, Igor Remec, James J. Wall, Madhumita Sircar, Carmen Andrade, Manuel Ordonez

米国DOEの研究所,米国規制庁,スペイン規制局も連名っていうちょっと豪華な布陣。日本はただの大学の教員,ゼネコン。日本の研究体制のなんというか,現場対応的なものがそのまま見えてますね。このほのかな残念感を著者を見て感じられたら,相当に研究通です。


近況

7月6,7,8日と日本コンクリート工学会年次講演会で博多に言っておりました。期間中,かつて名大にいた先生と会食でき,旧交を深めることができました。
司会は,今年は腐食(防食)で,面白く聞かせてもらいました。すぐ調べればわかることだと思いますが,電気防食だとASRがまずそうですね。電流で逆に加速したら面白いことできないでしょうか。
あとは,Cationが移動するのですけど,シンジェナイトとか,なにが析出しているのか気になります。しかし,水酸化カルシウムに対して,何を選択的に析出させたらバッファーになるのか,っていう研究はされているんでしょうか。こちらも興味深いです。

JCI総会で恩師に君もそろそろ懇親会に顔を出すようにといわれ,はじめて主催側でないときに懇親会に出てみました。いずれの学会もそうですが,おじいちゃんのための会になっているわけで,研究者間の懇親は別のところでもできそうだな,と思いました。企業の方と久方ぶりにお会いする機会としては素晴らしかいですけども。
今回は博多だけあって,食事もおいしいし,むしろ混雑がすぎたので欠席した方がよさそうでした。なんか,アラートがあるとよいですかね。

その他の夜の会では,同世代のみなさんと飲めたので元気が回復しました。


7月10日(日)は,名古屋市大の青木先生代表の科研(S)の打ち合わせでした。文化遺産保存に関する打ち合わせで,少し疑問に思っていた点について,直接実務に携わっている方のお話がきけてよかったです。コンクリートはやる人がメンバーをみるとたくさんいそうなので,レンガの塩風化をやろうと思いました。塩風化は,DEFとは違い,過飽和条件がイメージしやすいのでメカニズムや数値モデルは,材料や周囲土壌,飛来物質条件が定量できれば,その場その場に応じたモデルは(比較的)簡単につくれるのでは,と推察します。ですので,むしろ問題があった場合のキャラクタリゼーション方法についてざっととりまとめることと,現在起きているその現象をどのように停止させるか,ということが課題ですね。
回復性を担保しつつ停止する手法,というのはなかなかに課題です。チャレンジングなので燃えますけど。少し頭の体操をしたいと思います。


CCR投稿中の論文2本の査読が返ってきました。おおむね総じてPositiveと判断していますが,いずれもそれなりの分量の査読結果でした。Rejectよりは議論が続くのがありがたい。


6/29/2016

Action Mechanisms of Shrinkage Reducing Admixture in Hardened Cement Paste

Journal of Advanced Concrete Technologyから論文が出ました。収縮低減剤の作用メカニズムに関する論文です。従来研究は,処女乾燥中のC-S-Hのコロイド的挙動があるためにはっきりしなかった問題が多かったため多くの誤解がありました。それらを区分して実験し,今後議論すべき多くの事象を解明しました。 ・Vycorグラス+収縮低減剤の有無の比較から,毛管張力説が存在することを実証しました。これで収縮低減剤が自己収縮とプラスチック収縮に有効なことを実証したといえます。 ・十分硬化したセメント硬化体において,毛管張力理論による収縮量は無視できるくらい小さいことがわかりました。 ・十分硬化したのち11%で2年間乾燥させ,C-S-Hが安定化したセメントペーストについて実験を行い,収縮低減剤の有無のサンプル比較において収縮の全量が同じであることから長期乾燥では収縮低減剤が揮発し,気液界面に収縮低減剤が存在しない場合があること(揮発してしまうこと),固体と収縮低減剤が相互作用しており,それが40~70%RHあたりの収縮挙動に影響を及ぼすことを明らかにしました。 ・十分水和したあとの収縮低減剤の収縮低減メカニズムは処女乾燥中に生まれ,固体と収縮低減剤の相互作用が主要因であること,一次的が二次的かはわかりませんが,水酸化カルシウムが変質して微小結晶になることを確認しました。既往のアルコールとの研究結果から,CaOH基とアルキル基の相互作用は明瞭で,CHだけでなくC-S-Hも相互作用していると考えられますが,今回の研究ではやんわりとした表現にとどめています。現在,新しいC-S-H構造モデルの提案とともに,今回報告した収縮低減メカニズムの他のC-S-Hに関わる収縮低減剤の作用メカニズムについてCCRの方に投稿中です。

6/27/2016

JCI論文賞

過去の記事と重複しますが,6月20日に日本コンクリート工学会(JCI)の総会がありまして,そこでコンクリート工学会賞(論文賞)をいただきましたのでここにご報告いたします。

この論文は,過去の論文,

I. Maruyama, G. Igarashi, Numerical Approach towards Aging Management of Concrete Structures: Material Strength Evaluation in a Massive Concrete Structure under One-Sided Heating, Journal of Advanced Concrete Technology, 13 (2015) 500-527.

I. Maruyama, G. Igarashi, Cement Reaction and Resultant Physical Properties of Cement Paste, Journal of Advanced Concrete Technology, 12 (2014) 200-213.

この二つの論文は,見ていただけるとわかりますが,膨大な実験データとその実験データから物性を表現する数値モデルによって構成されています。
2000年代初頭から,欧州ではNanocemプロジェクトが実施され,Glasser先生やLothenback博士らを中心として熱力学平衡計算用のセメント系における定数が実験的に定められました。これにより,地質学の平衡計算ツールがセメント系に適用でき,相組成計算や劣化現象における問題の解決方法が実験的演繹的方法から大きく変化しました。21世紀におけるセメント化学分野の一番大きな発展といって良いと思います。
しかしながら,地質学的に数万年,数十万年オーダーで平衡を議論することと,たかだか数十年のコンクリートにおいて平衡計算を議論することは,まったく異なります。セメントの水和は,溶解から過飽和現象を経て析出するわけで,このプロセスに平衡はありません。高分子を練り混ぜれば液相組成は容易に変化するし,イオンの偏在が起きます。そのため,科学的にはセメント分野に平衡論を用いることは(過大な表現かもしれませんが,)誤りです。
しかしながら,反応の方向性を議論すること自体は正しい。それが平衡計算の位置づけです。

平衡計算ができるようになった今,何が重要かと問われれば,それは1)速度の問題,2)物性の問題,の2点です。速度は理論的に出せません。あくまでも経験工学です。そのためには膨大なデータが必要です。ダブルミキシングの問題,ペースト実験とコンクリート実験の練混ぜ効率の問題,さまざまな問題が生じます。物性はさらにやっかいです。化学反応から一気に物理的な応答の問題になるからです。こちらも実験データが必要でした。

私が名古屋大学に移って10年後のセメント化学,コンクリート工学に不可欠なものはなにかということを考えた時に以上の2点に問題を集約しました。設計工学から維持管理工学,あるいは潜在的性能評価が必要となる時代に備えるためには上の二つのデータが必要です。初代学生の寺本先生(広島大学)はこの初期の反応と物性関係について精査し,線膨張係数と自己収縮について膨大な実験を行いました。岸君は2000体を超えるサンプルを制御し,水分移動,収縮,熱伝達率に関するデータベースを作りました。乾燥収縮について新たな視点(というよりは過去にもあった議論を再評価)を着想したのは岸君のデータのおかげです。その後,五十嵐先生(東北大学)は水和反応についての知見を深めました。骨材についての議論も進み,博士論文では,C-S-Hの構造について深く議論しました。その後,堀口くんは特に骨材についての検討を深め,篠野君,杉江さん,西岡さんというスター選手が同一学年にいるという時代ができ,篠野くんはコンクリート中における損傷の問題,杉江さんは数値解析的検討,西岡さんは水和後の乾燥による変質についての検討を行いました。別府君,伊藤君はさらにこれらの検討を別角度から行ってきました。
10年間の膨大な蓄積がある種の抽出液のようになったのが上の2本の論文で,この論文が評価されたことは,ある種,AIJの業績評価よりも,研究室の学生達と進めた歩みを評価してもらえたという点で大変に嬉しいものでした。

過去の記事に記載したとおり,数値解析手法の研究には常に悩みがあります。それは研究的進歩とは何かという問題です。さまざまなものを連成することの意義は,すでに東大の前川先生らのチームが為してしました。残った課題の上で,日本が欧米に対抗するギャップをうめるとすると,実験により真実を見極めながら,簡素化し,現実問題の解決となるべく因果関係を評価するというのが一つの研究テーマだろうかと思っています。科学と工学をどのように橋渡しすべきか,何が大事なのかは常に悩ましい問題です。

そういった点で2015年の数値解析的研究は,まだ,納得がいかない部分があります。実験事実は覆りませんが,数値モデルは永遠にひっくり返される使命にあるのです。なにか少しでも後世の残るものがあると良いな,と考えています。

幸い,最近,やっといろいろな点について整合的なC-S-Hの構成モデルをGatner博士,Chang博士らと投稿しました。この論文が受理されれば,セメント化学の景色は一変すると思います。細孔構造とはなにか,C-S-Hの残された課題はなにか,そして今までのデータはどのように解釈すべきか,それらを統合的に説明できるモデルがやっと明らかになってきました。


さて,こうした環境が今あるのも,名古屋大学に籍をいただき,さまざまな環境と研究プロジェクトをやらせていただいたおかげです。勅使川原先生には特に私の立場を尊重いただいて心から感謝申し上げます。名古屋大学の建築教室の先生方には,実に貴重な機会を頂戴して今ある環境についてサポートいただきました。学外の特に建築分野外の先生とのおつきあいでは貴重な大型プロジェクトをさまざまに実施するチャンスを与えていただきました。それが成功に結びついてきたのはすべて共感できる学生方と出会えたからでした。
こういう条件がすべて整うというのは,まれなことではないかと思います。そういった点でこの境遇の感謝について,身の周りの人と分かちあえられたら,と思う次第です。

さて,名大10年の一区切りですが,これまた幸いにも大型プロジェクトがさまざまにあります。歴史的建造物の課題(科研基盤S,名古屋市大・青木先生),新規建築構造体(科研基盤A,京大・荒木先生),収縮低減メカニズム(École des Ponts ParisTech,LafargeHolcim),放射線照射影響(規制庁・主査),浜岡プロジェクト(中電,Technical lead),化石プロジェクト,などなど。実は打診いただいているのはこれにとどまらず,さらに多くのプロジェクトにお声がけいただいており,積極的に成果が出せるように努力していきたいと思います。

今後とも,無機系材料を中心に建設・建築分野での新境地をみなさまとともに開けるよう努力してまいりますのでどうぞ,よろしくお願いします。

6/05/2016

国際関係

気づいたら昨年と1日しかスケジュールがずれていませんでした。フィンランドのFortum社とノルウェーのIFEと研究打ち合わせのため,海外出張をしてました。

Fortum社との打ち合わせは,共通の悩みをもっていることもあって,実験データの交換で議論が活発になりました。今後,Fotrum社の実験データの評価に名大がまずは協力していく方向で議論がまとまりました。詳細はここに書けませんが,近い将来に論文化を検討しているので,そのときに議論の内容をしめしたいと思います。
名大で,セメギでも発表した電子線照射試験について,かなり大きな興味を持ってもらいました。

IFEとの打ち合わせは,今年度最後になった規制庁事業でのプロジェクトで,照射後のサンプル試験についてのつめです。今年度のとりまとめをなるべく早く行うようにというのが条件として与えられていましたので緊張感をもって進めました。おおむね想定どおりでスケジュールの約束をしてきたのですが,1点,従来の締め切り期限が守れない点があり,その点が大きな懸念点となりました。
今年度,早い時期にこの照射研究については論文化をすすめていかなくてはいけないと考えています。

3泊5日の弾丸出張でしたが,非常に有意義でした。頭が英語になったので,他の海外の研究者とのメールが進みました。時間が近いところにいたのも議論が加速した理由とは思います。時間というのは大事なファクターです。

9月に英国,Surrey大学のMcDonald先生のところに2週間,研究目的で滞在することになりました。その間,セメント化学の専門家の先生方ともお近づきになれそうです。まさか,リチャードソン博士とC-S-Hについて議論する日がくる,とは予想だにしていませんでした。敷居が高くて痺れます。

11月8-10日にInternational Committee on Irradiated Concreteの国際会議を名大で開催します。政策的にセンシティブなデータも出てくるので会員制・クローズドが基本ですが,オープンセッションも作りますので,原子力関係の方でご興味あるかたは是非,当方までメールいただけたらと思います。また,会員希望の方も是非。米国NRCも来日予定ですので,現在,日本の規制庁に出席を打診中。

チェコ工科大との共同研究のデータが出始めました。7月にStemberk先生が来日してくれるようなので議論が開始されます。補修コンの界面の問題で,結構,最近急に論文数が増えたトピックでもあります。境界条件があいまいなのでデータ整理が難しいです。日本だと上田多門先生のところのデータが英語でよく出ていますし,よい成果が出されていますね。参考にしなくては。

浜岡プロジェクトでのORNLとの共同研究の方向性の議論が停滞していたので,少し気合を入れました。面白データについては早めに論文化して,議論を深めていきたいですね。今年度研究は今月から始動です。

などなど,だいぶん,各国との共同的研究が進みはじめた状況です。

5/13/2016

新年度

新年度といっても,もうGWをすぎてしまいました。間があきすぎですね。
これでは,コンスタントに情報発信どころか季刊誌くらいになってしまっています。


論文関係の近況
論文がいくつか公開になりました。

Journal of Advanced Concrete Technology誌
A Numerical Model for Concrete Strength Change under Neutron and Gamma-ray Irradiation
この論文は,放射線環境下にあるコンクリートが変質する様子を予測するもでるで,CCBMと放射線輸送コードANISNを連成した世界で初めての経年変化予測プログラムです。すなわち,放射線・熱・水・水和連成プログラムで,将来的には応力とも連成させる予定です。
かなりマニアックではありますが,原子炉内や処分施設のコンクリートの変質を予測することができますよ,ということを示しました。多くの方との連名になっています。

Cement and Concrete Research誌
Impact of aggregate properties on the development of shrinkage-induced cracking in concrete under restraint conditions
こちらは,石灰石骨材を入れたコンクリートが拘束されるとなぜ,巨視的なひび割れの本数がすくなくなるのか,とうことを解き明かした論文です。実験ですべておいもとめたかったですが,骨材を変化させるとどうしても,すべてのパラメータ(ヤング率,収縮,遷移帯)が変化してしまうので最後は数値計算に頼りました。RBSMで計算するとこういうことを浮き彫りにできるよ,っていうことがいえる論文でもあります。

その他,5月9日のセメント技術大会では,「Electron irradiation-induced volume density change of natural rock minerals, a-quartz, orthoclase, and muscovite」を発表しました。このために聞きに来てくださった先生もいて,大変うれしかったです。こちらも,なかなかマニアックな論文です。


セメント技術大会には,セメント新聞とコンクリート新聞が置かれていましたね。コンクリート新聞の方では,まだ成果もでていない委員会ですが,当方が委員長をしているC-S-H研究委員会について取り上げていただきました。どうやって盛り上げていくかはまだまだ課題なんですが,少しずつ前進していこうと思います。

セメント新聞の方では,ゼネコンの方からみたセメント技術大会への辛辣なコメントがありましたね。スラグをつかった研究を行っている企業にコメントを求めるあたり,新聞社としてもそういうコメントを狙ったとおもうのですが,ポジショントークだと思った方がよいですね。あまり残念にもカッカする必要もないでしょう。自分の企業が収益源をまもろうとするのは当然の行為であり,利害が対立して辛口意見がでるのもまたしかり,かと。

一方,JCIも含めてコンクリート業界がタコツボかしているのは間違いなく,海外との知見交流もかつてほど大きくない状況を考えると,ガラパゴスかして亀のように数万年生きるミラクルがおきるかもしれないが,島がそのまま干上がることもあるだろうな,と思います。

近年は,文科省方針で大学教員は海外出張が極端に間接的に制約されているので,国の研究機関の人などが外にでていかないと海外の動向はとってこれません。国際会議というよりは,キーパーソンがでてくる会議に行って直接話をしてくるのが大事なわけですが,そういったことができない環境になっています。研究大学院が学部の授業で研究の質も低下する,といういかにもな状況になっているのは非常に残念です。やれやれ。

さて,セメント研究なりセメント開発に目をみれば,海外ではキルンの維持,人材育成も含めて利益とは別にも新しいセメントを開発してまずは動かしてみようという動きがあったり,ジオポリマーについても,まあ,限界はあるとおもうけどでもなにかできるかもしれないから研究しようぜ,やるならマジでやろうぜ,という活動が広範に行われていますが,そういうこと自体が日本では少なくなっているように思います。当座の研究として利益がもくろみやすい新設工事主体になるのは日本も海外も一緒ですが,そういった点でも研究の位置づけってもう少し広くみた方がよいよね,それはこういうことだよ,って示す大学教員ももっと多くならないといけないとは思います。

もう少し過激に書きたいところもあったんだけど,とりあえず,ふんわり,こいつ何かいてるんだろうな,くらいで切り上げようと思います。では。






3/23/2016

近況

諸行無常。

牡蠣殻は牡蠣殻で落としていかないといけないし、前進のためには破壊もなくてはいけないわけですが、そうはいっても、うまくいっているものが壊れるとか、チームだなくなるっていうのはさみしいものです。いやあ、うまくいっていると思っていても、足元から壊れているものなんでしょうけど、こんだけ頑張ったんだから、もう少し続けばよいのに、と思うことがままあります。

25日は卒業式です。研究室の体制もまた一段と変化し、新たな1年が4月からスタートです。

変化するとわかっていても、ちょっとずつ継続に向かって努力することに意味があるんかな、とは思って頑張っていこうと思います。



さて、最近は報告書で時間が謀殺されながらも、爪に火をともすように時間をかき集めて、論文の破片をつくって、つなげて、投稿してきました。

現在、審査中の論文は、
・骨材によるひび割れ性状変化:CCR:major revision 4回目
・SAXSによるセメント中の微細構造変化:CCR:査読中
・RC構造物の固有周期変化について:JACT:査読中
・放射線照射によるコンクリートの物性変化に関する数値解析:JACT:査読中
・収縮低減剤の作用メカニズム:JACT:査読中

といった感じです。収縮低減剤関係では、さらに2編書きたいと考えていて、SAXSで1編、骨材の放射線影響1編、規制庁プロジェクトサマリ1編を2016年度中に投稿できたらよいな、と考えています。

学生からは、メソスケール解析(RBSM)、チタンナノ粒子による微細構造変化、収縮低減剤の濃度依存性、ペーストの収縮の早期脱型、水分移動、などについて投稿してもらえたらと思っています。


4月からの研究動向としては、パリ東大学の学生が半年滞在して実験をしまくります。収縮低減剤関係。その他に、英国、ベルギー、米国での大学や研究機関との国際共同研究の準備が進んでいます。COST ACTIONへの参加も検討していきたいと思います。

さらに浜岡プロジェクトが大々的にスタートしますし、11月には国際会議を名大で開催の予定です。ASRに関する数値解析についてもスタートします。

ちょっとプロジェクトを引き受けすぎかな、と思ってもいますが、ありがたいことですのでできる限り貢献していきたいと重みいます。




2/25/2016

廃炉材研究

そういえば・・・。


https://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3259170_21432.html

浜岡サイトの廃炉プロセスが一段階すすみました。
同時に廃炉材を用いた研究にかかわる環境変化も整備され,はれて,浜岡原発1,2号を用いた廃炉材研究がスタートします。エネ庁側でも本件に今年度予算がついています。

経年変化した材料性能評価に基づく保全と高経年対策の高度化をもくろみます。最大の目標は,コンクリート側研究では耐震性能評価に材料物性評価をどのように関連づけるか,です。

とはいえ,楠先生に率いてもらった国プロ・システム安全研究で議論になったデータをまずは蓄積しよう,ということになっております。

こちらも最低4年の大型プロジェクトになる見込みで,海外との共同研究についてちゃくちゃくと(ゆっくりではありますが)進めています。また,米国,スペインでの廃炉研究での知見交換も期待できますので,広がりある検討になればと思います。

こういった基礎研究ができることが日本の強味といえるんじゃないか,と思います。

個人的には指針類への落とし込み,日本全体での知見共有,海外への国際貢献,について関係者とさらに議論していきたいと思っています。

2/18/2016

修論発表会終了

修論発表会が終わりました。学生行事はおおむね終わりです。
発表のうまい下手はありましたが、最後の最後に非常に貴重なデータや仮説が絞り出されて、プレゼンで示されました。努力の賜物だと思います。痺れました。
橋本君のおかげで、1H-NMR relaxometryの最先端研究にキャッチアップでき、研究室に新たな基盤ができました。そして、世に論文として出されているデータの問題点、データ解析の限界、今後の課題が明らかになりました。また、研究テーマがモンモリロナイト、MCM-41、Vycorグラスなどにも拡張され、それが問題解決に大きく役立ちました。いずれも繊細な測定でそれを実施可能にしたのは、橋本君の貢献が大きいです。(裏では、たくさん失敗したし、何度、厳しく実験手法の確認を指導したことか・・・)
酒井田君のおかげで、湿度測定の信頼性についてやっと確認できました。伊藤君の時代からのコンクリート中の湿度計測で、すでにセンサだけでも200万くらい無駄にしてきました。なんどもなんどもやって、やっと現状の湿度センサの限界と(研究上の)の湿度測定についての手法が確立しました。再現性確認に4年、共同研究先も含めての研究としては足掛け7年くらいかかりました。残念ですが過去に発表されていて信頼できる湿度測定結果は少ないです。スペインチーム(Azenhaら)、フランスチーム(Poyetら)も間違っているとおもいます。信頼できるのは、(私の知る限り)昔の椎名先生の湿度計測結果、および、橋田さんの若材齢の計測結果です。湿度センサはコンクリート中で継続利用すると、どういうわけか必ずドリフトします。市販されている高いものからやすいものまで10種類以上確認しましたが、いずれもダメです。結露の問題だと思いますが、生き残るものもあるので、取り出した後、校正機で確認して問題ないもののデータだけ論文に採用するという手法はありかもしれません。ただ、そんなリスクはふつうはおかせないですね。
Person博士が自己乾燥研究で、年に何回NISTで校正しているか、と聞いていたのを思い出しました。それだけドリフトするということですね。
それと、ASRの湿度依存性についての研究が、ぎりぎりで軌道にのりました。この成果は、もう数年かかりますが、この礎もきっと花開くでしょう。
本当は、ここからもうひと踏ん張り、論文を書いて成果としてとりまとめてもらいたいのですが、もったいないことにここで終わりそうです。ぜひ、後輩の学生には、この背中を見てつづいてもらいたいです。
両君のおかげで今年度も丸山研は着実に一歩進むことができました。

2/12/2016

近況 20160212

さて、近況です。

1.今日はセメギの締め切りでした。5人、全員英語で提出できました。だんだんと根付くとよいと思います。やはり、普段からの文献の読み込み、書く量、そして頭の中の論理性が重要です。英語的なスタイルで思考できるというのは、それなりに論文を書くときに大事です。M1にもB4にも英語が上手な学生がいて驚くとともに、心強く思います。

2.SAXS論文をCCRに投稿しました。とりあえず、査読まで回ったので、あとは天に任せます。骨材ひび割れ関係論文は2回目の返答をしました。今回でうまく査読が通ればよいと願うばかりです。JACTに照射によって劣化したコンクリートの強度予測の論文を投稿しました。

3.本日は、修論も締め切り日でした。みな、最後まで頑張りました。ただ、フィードバックはもっと早くほしいです。もっと伸びれたのに、と思うことが多いです。情報をいかに早く、適切に回すか、というのは常に考えてもらいたい点です。年をとったというのもあるのですが、研究も教育も自分の寿命を削ってやっているというのが身に染みてわかります。振り分ける時間に空白ができると、本当に焦るようになってきました。これも40を過ぎたからかもしれません。

4.JCI中部支部の講演会で、軍艦島と国立競技場の現場調査の研究について拝聴しました。生意気な意見であることは承知していますが・・・。マスで研究をやってそれに乗ることができるのは関東の先生だけだとおもいますが、なるほど、こうやってゆっくりと全体を少しずつ動かすのか、あるいは、その流れに身を投じるものか、という点で勉強になりました。私はとがった研究スタイルしかやってこなかったので、まったく逆視点ということで大変勉強になりました。

5.日本のよくない点は研究の多くが補助金であること、そのために教員等の人件費がまったく無視されている点にあると思います。大学に研究費が来ることは良いことです。しかし、そこに人件費が乗っていません。ちゃんとマネジメントができる先生であれば、そこに研究員や秘書、その他のマネジメントフィーを適切に載せると思いますが、そうでないところで足元を見られることも多いです。政府自らが、大学教員をそのように扱っているので、民間から見ても同様と考えられる方も多いように思います。
大学に来る研究の一部は、1)人件費を見ていないので安いから来ている、2)成果よりもその取り組みを含めて大学のブランドを適宜使いたい、というものがあります。こういった研究は民業圧迫、研究経費見積もり算定根拠の破壊、若手の学生のただ働きの上になりたっている、というような点で大変危険だと思います。
建築には、デザインの徒弟制度があり、デザインの魅力ゆえに、ということも別途議論されていますが、適切な経済活動に取り組むことを大学が率先してやらないと、本当に悲しい将来がまっているように思います。最近、特に学内で行われている研究に危機感を持っています。

6.最近、さまざまなところで将来構想の委員会に入っていることを紹介したと思いますが、建築としての学問の進化というのはなんだろうかということをずっと考えています。大学教育をプロフェッショナル教育にするということは、ただの専門学校化と何が違うかも気になります。もう、いっそのこと、一度、建築の枠を外した方がもっとものごとがよく見えるんじゃないだろうか、と。あまりに法律やルールに縛られすぎているんじゃないでしょうか。



1/24/2016

JACT 特集号

現在,Journal of Advanced Concrete Technologyにおいて,原子力建物に用いるコンクリートに関する特集号を行っています。当方が,ゲスト編集長を務めます。3月末まで論文を募集しておりますので,奮って投稿ください。

近況 1月24日

年度末です。プロジェクト,学生の研究など,もろもろ架橋です。

・SAXS関係の論文が大詰めを迎えています。数nmの構造体についての議論がもう少し進めば,投稿可能ではないかと思います。わからないことがいくつかあるので,不思議な相関がいくつかあるので,それらが統一されれば。5年越しで投稿といっていたのに,結局,6年越しくらいになりそうです。いけませんねえ。

・収縮低減剤関係では,あいかわらず面白い結果が多数でてきます。ほとんど研究されていなかったというのが実情なんでしょう。最新(とはいっても,まあ,Modernな,くらい?)の分析でやると既往研究の想像力で補った結論というのが,かなり間違っているということに気づきます。一通り整理して,3月までには投稿したい。

・水分移動に関する研究がだいぶんもりあがってきました。4年生小寺くんの貢献が非常に大きい。部材内部の湿度移動特性,収縮,ひび割れ,透気性など,氏家先生が昔やられていたことをトレースしながら,骨材依存性などを考えると,いろいろ見えてくることがあります。異なる温度の水分移動も脱着線データを組み入れると,各段にきれいな整理ができそうです。これは,あと1,2年かかるかな。

・RBSMのシミュレーションも,だいぶん,わかってきました。小川くんの貢献が大きいですが,その前の篠野くんが進めてくれた解析の進捗が最大の成果でしょう。やっと論文が数本は出せるんではないかと考えています。まずは,骨材周囲の損傷とコンクリート物性の関係。3次元でやっと整理できるようになった。

・今年は,JCIに全部で5件投稿しました。うち,3件は英語です。研究室からの投稿論文の原則を英語にしたので,今年は赤をいれまくって,ほんとうに細かいところまで手を入れました。国語でもよいんですよ。でも,レポートでたくさん書きますから,論文くらい英語で書いてから卒業させたほうがよいかな,と思います。大手ゼネコンで建築系,K社の場合は4割くらいは,海外の売り上げになってきてますしね。今後も各社いろんな動きがあるでしょうから,学生もバラエティに富むようにしないと。

・規制庁の照射研究は,メインの実験が無事に終わり,大型予算はちゃんと良い結果につながるようになりました。あとは,論文をサポートするさまざまな細かい知見をさらに入れようと思っています。本当にうまくいってよかった。これに関連して,数値解析論文を本日投稿しました。うまくいくとよいです。
また,今後を見据えて,国際共同研究が可能かどうかを検討しています。米国からは好感触でした。この情報をもとにスポンサーを見つけます。引き続き,この分野をけん引できるデータを出し続けたい。


・ASR研究も比較的良い立ち上がりになっています。これをフォローしていける4年生が育ったことも非常に素晴らしい。研究があらたな展開を見せそうです。


・昨日は,壁試験体を作成する途中で,ゲージ貼りにいってきました。実に10年ぶりくらいです。腰が痛くなりました。へこむ・・・。



・現在,チェコ工科大のStemberk先生が名大に短期滞在中。2月5日にミニセミナーをやるので興味があれば,ぜひ,来てください。

1/01/2016

謹賀新年

あけましておめでとうございます。
今年も,一歩一歩,仮説を提案し,検証し,セメント化学,コンクリート工学,その他の科学分野が少しだけ進歩できるような貢献ができたらと思います。
引き続き,みなさまのご支援とご助力,また,研究の議論をお願いできればと思う次第です。

次年度は,プロジェクトで最終年度のものもあり,なんらかの大きな成果が求められる時が来ています。最大限の成果がでるよう尽力したいと思います。

丸山