8/16/2016

成果を急ぐということ

国のプロジェクトを受託するとリーダーが急激に人格がかわる、ということは良くあります。それは多額の研究をもらうことで責任がひときわ大きくなることと、出資側の役人が(財務省や国民に対してわかりやすい)成果を早めに求めるからです。
地道にやってきて、成果がつもり、人に認められるようになって大型プロジェクトリーダーに収まるというのは大学研究者として我が国では成功コースのように考えられますが、本当にそうなのかは実に考えものです。
特に日本の工学分野、あるいは建築・土木分野のやってきたことというのは、他分野で開発された材料や工法を転用して、JIS化したり、大臣認定、施工実験を行って実務に反映させるということが研究部門のやることだったので、そもそも画期的な開発行為というのは、施工、構造、コンクリート等の一部の分野に限定される傾向があります。構造部門は新材料が無いとたらしい構法は出てこないし、耐震ということはほとんどやり尽くした感があります。施工はまだ、合理化の余地がありそうです。材料開発は、結局、多くが他分野からのお下がりです。

材料科学に目を転じると、現代の新材開発には多くの基礎研究が基盤となっています。高分子の設計には、分子動力学があたりまえに使われるし、第一原理計算も当然のように利用されます。材料の分析技術も同様で、原子一つの挙動まで理解されて議論されていることが良くあります。実はセメント分野も2000年台初頭からEUでなNanocemプロジェクトがあり、多くのことがあきらかになりつつあります。特に英国や北欧を中心に熱力学平衡計算、NMRによる構造解析などが進んでいた土壌があり、そこに合目的的に成果を出すNanocemプロジェクトが民間資本をベースとしてすすんだこどで、材料設計手法、性能評価/予測手法が構築され、多くに利用されていますが、残念ながら日本ではほとんどキャッチアップできていません。

すくなくとも、欧州のメーカーと同程度の開発能力を持つ部門をつくるのに7年必要だと私は考えます。その上で現状の課題で成果を出すのに2年。予算はおそらく10億くらいで少数精鋭でやればそれなりになるでしょう。でも、大事なのはそれが普及し、普遍化し、そこかしこでそういうった科学的事実にもとづき議論できることが業界の標準になることですが、これには20年はかかるでしょう。国際化じゃなくて、完全に戦後2回目の追いつき政策ですが、それもやむなしと思います。

こうした事実関係を無視して、すぐに成果を、といいだすリーダーは危険です。現場の兵隊と作戦本部には議論が必要で、現場の課題を把握してもらう必要があるのは第2次世界大戦から変わっていません。官僚化する教員、あるいは現役で自分で論文を書けない教員が増えるので、こうなるのでしょうが、それを止めるのが地方大学教員だと認識しています。

がんばってまいりましょう。

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