10/29/2017

海外出張総括:リヨン/ルーベン

IAEAの国際会議「Fourth International Conference on Nuclear Power Plant Life Management 」に出席しました。5年に1度の会議で、前回のソルトレーク・シティに続いて2回目です。その名のとおり、原子力分野のマネジメントの会合でして、どちらかというと一般的なマネジメント、それをうまく回すための知見交換の国際会議です。人間の一生よりも長く運転しよう(米国では、80年を目指している。)というところでは、場合によっては原子力発電所を作ったゼネコンもメーカーもいないわけです。すなわち、知見は運転側がちゃんと管理しなくてはいけなくて、メーカーがいる間はノウハウだといってものをクローズし、なくなったらそのまま消えるなんていうのを許すのかどうか、というのもマネジメントで議論するテーマです。そもそも設計した人もいなくなり、初期に運転を立ち上げた人もいなくなった上で、ノウハウ・知見もまるごと飲み込んで世代を超えていくのは、人材育成も含めた壮大なマネジメントであり、挑戦です。最近の韓国の原発の部品偽装の件、神戸製鋼、日産の件などを見るとこれは、人間の善悪をも乗り越えるチャレンジであると言わざるを得ません。そこで必要とされる技術はなにか、工学とサイエンス、それらをどのように融合して価値判断に結びつけるのか、ということを深く考えさせられる会議でした。

建築というのは、特に日本では一世代限りのものとして設計されることが多いのですが、本当にそんなんでよいのか、ということもこのご時世考えるべきです。サステナブルというならが、作られるものの概念ごと変えなくてはいけないわけです。それと同時にその概念に資する技術もまた、現在の建築の枠を超える必要があります。

KU Leuvenは1400年台に作られた大学で、EUの中でも古い方の大学です。メルカトールとか、有名な研究者を何人も輩出しており、EUの重点12大学の一つであり、Timesや他の大学ランキングでも東大よりも上のことが多い大学です。
そこの先生(Ozlem Cizer先生、Assitante Prof.)から、国際会議の招待講演の依頼を頂いたのですが、都合で出られなかったのでお詫びを兼ねて伺いました。私よりも若い女性の先生でしたが、ジオポリマーやSCMを用いたコンクリートの研究を積極的にやられていて、RILEMの委員会や国際会議等にも多数参加されています。研究について、いくつか議論させてもらいましたが、主要論文を一通り目を通していて、特徴的な研究チームの実験や研究スタイルも頭に入っており、話がすごくはずみました。組積造のライムモルタルとか、炭酸化にも詳しかったです。ここにもまた、構造・材料・化学・科学を結びつけようとしているチャレンジングな研究者がいます。日本の若手の材料の先生は、彼女の研究もチェックしておくと良いと思います。Research Gateにも参加されてますし。

10/17/2017

JACT

放射線を照射した時のコンクリートの劣化のメカニズム解明と維持管理における健全性評価法を提案した、原子力規制庁の国家プロジェクトの全体像を記した論文が、Journal of Advanced Concrete Technology誌に掲載されました。[Development of Soundness Assessment Procedure for Concrete Members Affected by Neutron and Gamma-Ray Irradiation]

5/21/2017

5月だった (途中報告)

GW中は,東京と名古屋を行ったり来たり。家のことも,外のことも無難に過ごしました。家のそばに,安い大型銭湯があってサウナが気持ちよくなったのは,明らかにオヤジ化しているんじゃないかと思いました。

GW後半から,オタワで行われている,OECD/NEA ASCETのASRを生じたRC壁のベンチマーク解析に出席しました。日本からは3チーム,その他は,米国,カナダ,フランス,フィンランド,が参加されていました。私は規制庁に対して,審査の観点から必要なノウハウの構築とその重要性評価の観点から参加して,レポートを作製しました。実験はトロント大学で実施されました。トロント大学といえば,Collins先生がかつて在籍し,RCとして著名な大学でした。しかしながら,今回のベンチマーク解析の実験は,残念ながらひどいかったです。まず,せん断壁の載荷が行われたのですが,私でもわかる載荷の間違いが複数あって,ベンチマーク解析は惨憺たる結果になりそうでした。
これからのとりまとめが大変になりそうです。それでも,フランスチームの考え,米国のチームの考えば,明瞭に出てきていて,別の観点で大変参考になりました。自分がビハインドしている部分では,大変勉強になりました。


帰国翌日は,RC壁の載荷を自分の研究室で実施しました。こちらは,1年間,壁を室内で乾燥させて,それから載荷したものです。養生を90日程度実施したバージンの壁と挙動の比較をするもので,先日のJACTのReviewPaper,に対応したものです。大変興味深い結果がでました。このことで,ナノ・原子スケールのC-S-Hの挙動が,RC構造を考える上でも大事だということが示されたといえます。


翌週は,Prof. Peter McDonald(Surrey大学)が名大に来られました。ご存知のようにPeterは,1H-NMR Relaxometryをセメント系材料の応用し,非破壊でナノスケールの水の挙動を評価する手法をNanocemプロジェクトで確立し,近年さまざまな影響力を持つ論文を執筆しまくっている先生です。Ellis Gartner博士との紹介で,昨年から共同研究を実施しており,今年は,東北大の五十嵐先生もPeterのところに滞在しております。今回,時間を見つけて,初来日していただき,さまざまな講演をしていただきました。名大では,NMRの基本から2日間にわたった講習会をしていただくとともに,東京でのセメント研究者とのワークショップ,セメント協会での講演などを行っていただきました。
1H-NMR Relaxometryでの成果で,もっとも大事な点は,層間水とゲル水(我々はゲル水と考えていませんが),キャピラリー水に対してT2緩和が交換していない(このデータは2005,6年に公開),ということです。水和を継続しているときも,乾燥した時も,卓越したT2緩和に分解できるため,これらは空間的に多くの部分で独立だ,ということ。すなわち,コロイドモデルでは,これらの水は接触面積が増えてくるために,T2緩和は分離できず平均的な値を示すはずなのに,つねに同様の卓越するT2緩和時間が示される。
このことは,結局のところ,C-S-HはFeldman &Seredaのいう,ミルフィーユ状の,シート状構造を構成していることの証明になっています。すでに2008年ごろからヨーロッパでは議論されており,(ちょうど,JenningsのColloid model IIが出版された年),ヨーロッパではコロイド理論の否決になった年でもあります。
こういうことが,日本にはまったく紹介されておらず,いまもってよくわからない解釈が国内学会でも跳梁跋扈しているのは,自由度が高いのか,お気楽なのか,謙虚さがないのかわかりませんが,私個人としては大変恥ずかしい状態だと思っています。


セメント協会のC-S-H研究委員会では,このあたりまで論文から深読みできる若手研究者が1名でも増えれば良いと私は考えています。今,日本に必要なのは底上げではなくて,トッププレーヤーの育成です。トップが低いと業界全体が沈没します。足をひっぱるんじゃなくて,優秀な若手を見つけたら,業界全体で投資するようにしていかなくてはいけない。そのためにはセメント系材料では科学的視点や他分野との意見交換が国内では大幅に欠落しているので,若手をなるべく別分野や国外に出す,あるいは助教やポスドクを他分野から連れてくるような努力が必要と思います。
名大では,現在,その仕組みづくりを検討しています。

5/20/2017

もう,5月だった。(4月の話)

4月がすぎて,すでに5月でした。これでは,全然情報公開になってない・・・。

3月後半ですが,最終週は次年度からの研究開始を踏まえた打合せが多くて,ほとんど研究について考える時間(正確には,データを評価したり考察したりする時間)がありませんでした。予定表を見てみると,卒業式の日以外には,2件以上の打合せが全て入っています。

4月4日には,E. Gartner博士が名大に来られて講演を行いました。CO2低減を前提とした次世代のセメント系材料のあり方など,EUの動向等を詳しく話題提供いただきました。


Ellisとは,論文も共同で書いており,この間に査読修正を行っていました。無事,論文が公開されました。
この論文は,C-S-Hがなぜ,C1.7SH4.0の組成をもつのか,そこで水和がとまるのか,そして非回復の変質とはなにか,を示したものです。今までのデータをすべて同一のモデルで解釈できる点が画期的です。

4月・5月で新しく仕事が増えました。一つは,SIPの土木関係で,セメント解析研究会というものが立ち上がり,その副主査になりました。もう一つ,福島第一の問題に関連して,コンクリートに関わる研究として,NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)における検討委員会の主査を務める事になりました。いずれも,かなり大事な仕事ですので,出来る限りのことをしていこうと思います。
4月の最終週には,ConCrack5の国際会議が東大でありました。学生のJangくんが若材齢の時間依存性を考慮したRCのひび割れ構成則を提案して,マスコンひび割れの予測方法を提案しました。画期的とは言いませんが,今まで明示的に考慮されなかった時間依存性の問題をちゃんと取り扱ってみたという点には価値があると思います。会からは,論文化の推薦をいただきました。Jangくんが対応できるようなら,ぜひ,論文化したいと思います。




4/08/2017

3月後半について

3月の20日の週は,H大学のN先生のところに研究の打合せをしにいったり,K大学の環境工学系のI先生のところにお話を伺いにいったりいたしました。K大学の建築の状況は由々しきものがあり,他人事ではないな,と思います。なんども外でも発言をしていますが,建築学科が専門職教育を標榜するんだったら,専門学校で十分ということを示すことになってしまうので,学問領域の拡大とか,学問の深化とか,そういったものをつねに自己評価していかないといけないと思われます。なにもわかりやすいジャーナルだけが評価ではないのですから,自分で自分の価値を定義・提議していくことをしていなければ,わかりやすいところに駆逐されてしまうのではないでしょうか。
あと10年もたったら,人口分布から考えても,東海圏に必要な大学は半分以下にならざるを得ないわけことを考えたら,ちゃんとやっていったほうが良いと思うんですけども。

3月最終週は,卒業式がありました。頑張った学生が出て行くのは毎度のことながら,寂寥感があります。とはいっても,それが社会ではあるので,そうした環境で自分と学生がどう高めあっていけるかを再出発しようと心をあらたにいたしました。

さて,新しい論文が一本公開されました。

Ellis Gartner, Ippei Maruyama, Jeffrey Chen:
A new model for the C-S-H phase formed during the hydration of Portland cements
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008884616303921

従来のC-S-Hの構造は,Richardsonの論文に見られるように,11%RHとか,D-dryなどの乾燥条件で構造形式をとりまとめてきており,それをもとに,湿潤時の評価をおこなってきました。これは,PowersらのEvaporable,Non-evaporable water の研究以降の考え方であり,Porous Materialの考え方を踏襲しています。しかし,実際には処女乾燥化で非回復の変質がおきることもわかっており,湿潤状態のC-S-Hがどういったもので,非回復の変質が何に基づくものかを議論した論文は(ほとんど)ありませんでした。

加えて,Powersの論文やYoungらの論文にあるように,水和が停止するときのC-S-Hの構造は,C1.7SH4.0となっており,このH4.0にはゲル水が含まれるということになっていました。が,しかし,なぜ,水和物の残余空間であるゲル空間がC-S-H量とともに増えるのか,その割合がなにゆえ一定なのかは未解明のままです。

これを解決するモデルを提案したものが,上の論文です。
ある意味では,Powers,Jenningsらの考え方を全部再整理したものになっています。
また,この論文は,Jennings博士とChanvillard博士へのDedicationとなっております。
もし,論文が手に入りにくいようでしたら,メールいただければご送付いたします。

3/05/2017

フィロソフィー

Monteiro先生をお尋ねして,C-S-H研究について議論しようと思ったいたのですが,放射線影響研究で存外もりあがってしまい,昨日はあらためて,Prof. Wenkのゼミでプレゼンする機会をいただき,特に石英のメタミクト化について議論しました。
ほんとうは,カルサイトコンクリーションについても議論しようと思ったのですが,そちらは時間切れ,というか,ちょっとやり過ぎかなとおもって控えました。
結晶構造学の権威と簡単にお会いできるのは,素晴らしいですね。ちょうど,クォーツァイトの研究をやられているということでした。

こちらの博士の学生ともいろいろ話をしました。5年目ということです。こちらでは,主となる専攻とサブの専攻2つのクラスをとることが必須で,博士論文はそれほど大事ではないそうです。かれは,放射光をつかった分析で優れた成果を出していましたが,5年目でこれだけ広い知見をもっているのか,と大変衝撃を受けました。
私は,同じくらいの知識を得るのに10年くらいはかかったので。もちろん,世界最先端という環境もあるのですが,幅広いバックグラウンドを持っているということが重要なのだと思います。

博士のあり方についてもいろいろ考えさせられます。日本の博士のプロセス自体は欧州のそれと似ています。しかし,理系で手段の有用性を学問として捉えているのは日本だけではないかと。Ph.Dと博士号のフィロソフィーの違い。リベラルアーツの重要性を理系が真剣に取り組まなければ日本の大学はダメになるな,と,また思いました。「今ある技術で何ができるか」,を考える人ばっかりなのは日本だけです。外に出れば,理系も文系も関係なく,学問を納めた人間は社会が何が必要か,から考えて会社を経営したり,研究していたりすると思います。

結局,技術をどうつかうか,社会にどう貢献するのか,なにが求められているのか,次の世代に何を残すのか。

今の日本は最先端の技術さえ,取り込むことができない上,つかいこなすフィロソフィーを伝える人も少なくなってしまったように思います。
建築学が,建築の新しい価値をどれだけ探しているのか,どれくらい本気でやっているのかが改めて問われていると思います。

3/01/2017

3月に入ってしまいました。

みなさま,気づいたら正月以降,1回も更新なく3月に突入してしまいました。今,LAにおります。明日は,SFに移動で,UC BerkeleyにProf. Monteiroを訪ねます。

近況
1)放射線研究
8年間に渡ったコンクリートの照射研究が終了しました。おおよそ何が起きているかは明らかになりましたが,研究の常ですが,やればやるほどわからないことがわかります。今回,科学的根拠を明快にして新しい健全性評価フローを提案しますが,これが本当に適切化どうかは,さらなる研究が必要です。加速試験はつねに実際の現象との比較が必要であり,加速試験の限界は何かと併せて議論しなければいけません。
中性化の加速試験と実際があわないのと同じです。そもそも,中性化メカニズムちがうんですから・・・。

というわけで,新しい研究ができるよう現在,米国とも協議中。うまく日本国内でも予算が付けばよいですが,最悪,我々のサンプルを米国に渡して,研究を継続してもらおうと思っています。

なお,報告書については概要をすべて英語にして論文として出版する予定です。そちらについてもうまくすすみましたら,みなさまにご報告申し上げます。

2)原子力維持管理特集号
みなさまのご協力で,大変素晴らしい,維持管理の特集号が発刊されました。フリーです。みなさま,ぜひ,一読ください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/14/Special_Issue/14_S1/_article

3)研究室
次年度は,D1が一気に3名増えます。昨年秋入学した学生と併せて4名です。今後はプロジェクトと紐付けて博士学生を増やすことを検討していきたいと思います。今,1件の案件で,文科省案件でもこの提案が可能かどうかを検討してもらうようにしています。博士にはサラリーを出し,国際公募で優秀な学生を集めることを,遅まきながらやっていきたいと思います。
学部4年は残念なことに1名でした。一緒に成長していきたいと思います。

4)その他
各種の報告書を記載しているところです。次年度も国プロ関係が多く,ちょっと気になりますが,できる範囲で粛々と,そして前進を目指したいです。









1/03/2017

謹賀新年

あけましておめでとうございます。

あっという間に年が明けました。本年もどうぞ,よろしくお願いいたします。
年を取るということは,夢を見て不断の努力をするとともに,あきらめることの繰り返しのようです。
友人のブログにも書いてありました。
http://blog.tinect.jp/?p=20565

40を過ぎたら,もう先が見えます。限られた時間の。その中で何をすべきか,しなくてはいけないかは大事な問題です。世の中,時間とその対価はもう少し見直されるべきではないか,という点も多いです。
大事なことは何かを見極めながらも,満足できる前進がかなうよう頑張りたいと思います。