10/27/2022

ベルギー・ゲント NuMat参加

 Nuclear Material Conference 2022

に参加してきました。今回は,Plenary・基調講演をさせていただきました。講演タイトルは,「Toward soundness evaluation procedure on concrete member affected by neutron irradiation」ということで規制庁プロジェクトの内容と,エネ庁事業のまとめの成果についてお話しました。規制庁事業の内容はすでに2016年の内容で,JACT2017年にまとまっているので,そんなに新しい話はないんですが,骨材が中性子で膨張すること,コンクリートの劣化が進むこと,岩石毎にこの挙動は変化するので適切な評価方法の構築が必要であることを指摘させていただきました。また,Flux効果については,照射効果の温度依存性の観点から考えると,かなり大きい可能性があるので,こちらも,規制緩和の観点で大事であるとの指摘をいたしましたが,これは,前回のPLiM Conferenceで発表した内容でした。

温度依存性などについて,いくつか質問をいただきましたが,どちらかというとこのNuMatは,処分関係の材料研究者が多く,Aging Management関係者は少ないので今後に期待という形になりそうです。

今回のこの機会は,VTTのMiguel Ferreira博士と,Belgian Nuclear Research CentreのQuoc Tri Phung博士のご推薦によるもので,大変ありがたかったです。Belgian Nuclear Research Centreにも訪問の機会を得て,ベルギーの国の研究所のマネジメント,給与体系,大学とのコラボレーション,研究教育,EU内でのプロジェクトの状況,背景にある考えた方について教えていただきました。国の研究所は,それほど競争的ではないこと,極端に評価がわるくなければ給料は基本的に年序列であること,一方で,高いレベルの研究が望まれており,自己研鑽ができる人材であることが採用時にはかなり細かく調査されていることなどは重要な知見のように思いました。

EUは,大型予算でも人に出すことを考えており,EU内でも研究レベルの格差を調整するよう人の交流,知見の交流を学生や若手研究者への支援で実施し,異なる分野での研究協力が実施されるような活動への支援が長期にわたってなされています。研究者は,自然と,他の研究プロジェクトにも入りやすくなるよう,オリジナリティと強味を理解し,自分の研究分野を軸に他分野とのコラボレーションができるポジショニングの獲得を重要視し,それゆえ,科学の背景を有することも大きな強みになっています。もちろん,工学で,従来の経験工学的な部分もあり,それはそれでやはり工学的知見を重視したフィールドでの活躍もあるのですが,今は,なるべく研究分野が拡大,混合,進展するような取り組みを個人もEUも進めているように思われました。

同じような研究テーマを数年ごとにつくりだして, 国中でおなじことをやるというようなスタイルとはだいぶんことなります。

日本も今後は研究者・研究費が減っていくので,こういった人と知見のサーキュレーションを考えた活動が大事になってくるものと思います。うまくいくかな。

その他,実験装置なども多数拝見してインスパイアすること多数でしたが,写真は厳禁でしたし,公表は難しそうです。今後,かれらとも共同研究ができそうでしたので,いろいろ知見交換をまずは進めたいと考えています。



Comparison of shrinkage and mass change of hardened cement paste under gradual drying and rapid drying

 Comparison of shrinkage and mass change of hardened cement paste under gradual drying and rapid drying という題目で新しい論文が公開になりました。

修士の瀬川さんの論文です。1H NMR Relaxometryのお陰で、湿度と空隙の関係が明快になりました。そのうえで高湿度域の収縮、クリープを見直すと、不思議な傾向が浮かびあがります。含水率と収縮が対応しなくなります。数値解析を検討している研究者には困る現象ですが、現象理解に役立ちます。この研究は,以前の時間依存性吸着等温線モデルとも対応する概念になっています。

下記のように,各湿度に設置した試験体の含水率変化とひずみ変化をプロットしたのですが,直接,ターゲットの湿度に置くものと,ゆっくりとRHを下げていくものでは高湿度領域であきらかに挙動が異なります。特にゲル水が乾燥するよりも大きな湿度域でこの挙動が顕著なのが特徴的です。



ところで,この研究を実施するのに従来の研究を大きく実験系を変更させました。ここにあるように画像分析装置(精度0.1μm)で,厚さ1mmの円盤試験体をつくって,画像で寸法測定をすることにより,小さな試験体でデータ取得を飛躍的にやりやすくしました。透明なケースを用いることで,サンプルを取り出す必要もありません。


詳細は論文を読んでもらえればと思います。



https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666549222000263

10/19/2022

マスコンクリートのひび割れ幅の予測

 マスコンクリートのひび割れ予測は古くて新しい問題です。日本では日本コンクリート工学会を中心として、ひび割れ制御指針が示されており、古くからさまざまな数値解析予測を用いた手法を中心として、検討がすすんできました。

マスコンクリートの問題は、セメントが水和して発熱するのですが、大型の部材の場合には表面からの放熱が限定的なので内部で温度が上昇し、下がるという現象が生じるときに、同時にヤング率が低い状態から高い状態に変化します。自由変形では、温度の増加とともに膨張し、その後温度の低下とともに収縮し、線膨張係数が一定なら、ひずみはゼロに戻ります。

この間、対象部材が拘束されていると膨張時(温度上昇時)に圧縮応力が、収縮時(温度低下時)に引張応力が働くのですが、その時の材料のヤング率が圧縮応力が働くときに小さくて、引張応力が生じるときに大きくなっているので、差し引きで引張応力が残ります。この応力が引張強度を超えるとひび割れます。

この挙動は、温度の履歴、ヤング率の履歴、強度の履歴が正確に表現できないといけません。もっというと、線膨張係数、クリープも、適切に表現されないといけなし、部材の中では中心部で温度が高くて、反応が進んでいち早くヤング率が発展する一方、外の方が温度がそれほどあがらないので、ヤング率も強度も発展しないというような、水和ー熱ー水の連成を適切にもとめないといけない、という複雑な問題なわけです。

我々の研究チームでは、剛体バネモデルにこれらの内容を組み込んで予測することで、ひび割れを予測することができるようになりました。

[1] P. Srimook, I. Maruyama, K. Shibuya, S. Tomita, Evaluation of thermal crack width and crack spacing in massive reinforced concrete structures subject to external restraints using RBSM, Eng. Fract. Mech. 274 (2022) 108800. https://doi.org/10.1016/j.engfracmech.2022.108800.



建築の分野では、ひび割れの検討では、山崎氏が詳細に検討されたりして、対象部材のひび割れが理論通りに分布しないことなどを指摘していました。この問題、試験体のディテールにも依存するのですが、長い試験体の場合、実は対象部材と拘束部材の間に水平ひび割れが入るので、これが解析に大きな影響を及ぼしています。下の図の部材右端のひび割れです。


断面内の温度分布があるので部材全体が曲げ変形することは古くから指摘されているのですが、部材の貫通ひび割れの評価に、この水平ひび割れが大きく影響することは、おそらくは昔の構造をやっていた人なら理解できると思うのですが、数値計算上はややこしくて考慮d系なかったんだと思うのですよね。
JCIのマスコン指針では、FEMを用いて解析をするときに表面ひび割れは無視するというのがあるのですが、そもそも、その表面のひび割れにより緩和する挙動がモデル化できていない時点で部材に生ずるひび割れ発生駆動力の評価があまり適切に評価できていないことになります。

それと解析していて、こちらも明らかになりましたが、自己収縮を考慮しないとこうった適切なひび割れはやはり評価できません。その観点で、AIJ指針の最新版で自己収縮を明示的に考慮するよう、JCI指針を追随したのは適切な判断だったかと思います。

FEMについては、過去の発表したものもあるのですが、今後はひび割れを考慮して全体を考慮しなくちゃいけない、ということになろうかと思います。ラフなひび割れ幅の予測については、今後も粛々と検討やっていこうかと思います。

なによりも、今回の剛体バネモデルの構築で、実験に頼らずとも、それなりに精度でひび割れが表現できるようになったので、統計処理する基本をこの剛体バネモデルで行い、データを作成してひび割れ幅予測式を提案するということも可能になったのは大きな前進だと考えます。



10/09/2022

再始動

 大分長く空いてしまいました。今後は,少しづつ,またこちらに細々したことを記載していこうと思います。

最近やっていることなどを少し紹介します。最近は担当している大型プロジェクトが大分増えてきました。研究方針,とくに科学的な観点での戦略立案役が主軸になってきています。また,データ分析や科学的な仮説立案で御役に立っているかと。

・ムーンショット C4Sプロジェクト:これは野口貴文先生がPIです。私は,製造プロセスの担当で,炭酸カルシウムをバインダーとしたコンクリートの生成メカニズムを担当しています。2年半前にスタートした研究ですが,最初の半年でΦ1x2cmの試験体で生成プロセスの検証を行い,徐々に試験体を拡張し,強度増進を測ってきました。最近ではブロックサイズも射程に入ってきて,実用化がみえそうになってきました。また,来年の春先くらいにはプレスリリースなどが行えるとよいと考えています。このプロジェクトの製造部分では,東京理科大学,太平洋セメントさんと一緒に研究を行っています。

・グリーン・イノベーション基金 コンクリート中のCO2固定量評価方法の標準化プロジェクト これは私がPIです。NEDOからのプロジェクトですが10年にわたる研究開発ということになっていますが,私は今後開発されるだろうCO2を固定したコンクリートにおいてどれだけ固定されているかを確認する手法の開発をJIS,ISO化することを支援する役割になっています。さまざまな手法を検証・実証してすすめていきます。他プロジェクトにも利用してもらうことが目的となっているので,最初の数年で一定程度の成果を出そうと考えています。本プロジェクトでは,北海道大学,名古屋大学,広島大学,琉球大学,太平洋コンサルタント,リガクのメンバーで研究を行っています。

・コンクリートの放射線影響評価プロジェクト こちらは,原子力発電所の長期運転を支援するための研究です。原子力発電所がベストではないのはわかりますが,よりよい世界に移行するにあたって資源を持たない日本で安定供給が可能になるであろう有力な手段であることは今後50年くらいはかわらないのではと考えています。新しい炉をつくるにしても,時間を考えると,今ある炉を適切に運用していくのが大事になってきます。その上で,社会のみなさまに,どのように懸念をもって,どのように解決しているのか,マネジメントしているのか,を説明することが大事だと考えています。中性子,ガンマ線を当て続けたコンクリートがどのような変質をもたらし,構造にどのような影響を有するのかを,原子スケールから,構造部材スケールまで事象を科学的に解明し,影響度を評価する研究です。私はこの花宮を2010年から実施し,一貫して国のプロジェクトの研究方針を打ち出し,リードしてきました。引き続き,国際貢献ができるように尽力したいと思っています。この研究では,三菱総研,千葉大学,名古屋大学,鹿島建設など多くの組織で研究を行っており,海外の研究所(ORNL(米国),CVR(チェコ))とも協働しています。

・英知事業 福島第一発電所廃炉にかかわる,放射性物質とコンクリートの相互作用に関する研究プロジェクト 福島第一発電所を今後どのように廃炉していくかは長期にかかわる研究課題となっています。そのさまざまなオプションを評価するためにも,大量に存在するコンクリートを無視することはできません。本研究では,CsやSrとコンクリートが,炭酸化,乾燥収縮,ひび割れなどを有した状態でどのように相互作用するのか,といったことを解明していっています。すでに多くの論文が出されていますが,今後も引き続き,研究を進めていきます。

・コンクリートの乾燥影響,こちらは勅使川原先生との研究で,鉄筋コンクリート構造物が乾燥によってどのように性能を変化させるかということを実験・理論両面で理解するための研究になっており,本年度,実大に近いスケールで鉄筋コンクリートの3層試験体を2年間乾燥させてから載荷実験を行ってました。2年前にはまったく同じ設計で十分水和させた直後に実験を行っており,今後,さまざまな結果が出てきます。モニタリングなどで乾燥させる固有振動数の変化について,材料から説明ができるはず,との観点で研究を行っています。こちらについても,すでに様々な論文が出ています。今後,少しつづ,説明していこうと思います。こちらは名古屋大学がメインとなっています。

・廃炉材を用いたコンクリートの健全性評価方法の高度化研究。こちらは名古屋大学で実施している研究で,中部電力にお声がけいただいた研究です。現代のコンクリートの中でも,水,温度(しかもそんなに高くない40℃くらいでも),長石類などがある条件ではトバモライト生成が生じ,コンクリート強度が飛躍的に高くなるというメカニズムを世界で初めて発見し,解明しました。その他,非破壊試験の応用,数値解析手法の応用,などを研究しています。

その他,3Dプリンティング材料,火山灰を用いたセメントシステムにおける反応と物性発現機構の解明,炭酸化したコンクリート中の鉄筋腐食速度推定方法,炭酸化収縮メカニズムの解明,たたきの水和反応メカニズム,火星における建設材料研究,地産地消型建設材料開発のあり方,建材へのCO2固定方法ならびにCO2オフセット手法の開発,などを行っています。