5/21/2017

5月だった (途中報告)

GW中は,東京と名古屋を行ったり来たり。家のことも,外のことも無難に過ごしました。家のそばに,安い大型銭湯があってサウナが気持ちよくなったのは,明らかにオヤジ化しているんじゃないかと思いました。

GW後半から,オタワで行われている,OECD/NEA ASCETのASRを生じたRC壁のベンチマーク解析に出席しました。日本からは3チーム,その他は,米国,カナダ,フランス,フィンランド,が参加されていました。私は規制庁に対して,審査の観点から必要なノウハウの構築とその重要性評価の観点から参加して,レポートを作製しました。実験はトロント大学で実施されました。トロント大学といえば,Collins先生がかつて在籍し,RCとして著名な大学でした。しかしながら,今回のベンチマーク解析の実験は,残念ながらひどいかったです。まず,せん断壁の載荷が行われたのですが,私でもわかる載荷の間違いが複数あって,ベンチマーク解析は惨憺たる結果になりそうでした。
これからのとりまとめが大変になりそうです。それでも,フランスチームの考え,米国のチームの考えば,明瞭に出てきていて,別の観点で大変参考になりました。自分がビハインドしている部分では,大変勉強になりました。


帰国翌日は,RC壁の載荷を自分の研究室で実施しました。こちらは,1年間,壁を室内で乾燥させて,それから載荷したものです。養生を90日程度実施したバージンの壁と挙動の比較をするもので,先日のJACTのReviewPaper,に対応したものです。大変興味深い結果がでました。このことで,ナノ・原子スケールのC-S-Hの挙動が,RC構造を考える上でも大事だということが示されたといえます。


翌週は,Prof. Peter McDonald(Surrey大学)が名大に来られました。ご存知のようにPeterは,1H-NMR Relaxometryをセメント系材料の応用し,非破壊でナノスケールの水の挙動を評価する手法をNanocemプロジェクトで確立し,近年さまざまな影響力を持つ論文を執筆しまくっている先生です。Ellis Gartner博士との紹介で,昨年から共同研究を実施しており,今年は,東北大の五十嵐先生もPeterのところに滞在しております。今回,時間を見つけて,初来日していただき,さまざまな講演をしていただきました。名大では,NMRの基本から2日間にわたった講習会をしていただくとともに,東京でのセメント研究者とのワークショップ,セメント協会での講演などを行っていただきました。
1H-NMR Relaxometryでの成果で,もっとも大事な点は,層間水とゲル水(我々はゲル水と考えていませんが),キャピラリー水に対してT2緩和が交換していない(このデータは2005,6年に公開),ということです。水和を継続しているときも,乾燥した時も,卓越したT2緩和に分解できるため,これらは空間的に多くの部分で独立だ,ということ。すなわち,コロイドモデルでは,これらの水は接触面積が増えてくるために,T2緩和は分離できず平均的な値を示すはずなのに,つねに同様の卓越するT2緩和時間が示される。
このことは,結局のところ,C-S-HはFeldman &Seredaのいう,ミルフィーユ状の,シート状構造を構成していることの証明になっています。すでに2008年ごろからヨーロッパでは議論されており,(ちょうど,JenningsのColloid model IIが出版された年),ヨーロッパではコロイド理論の否決になった年でもあります。
こういうことが,日本にはまったく紹介されておらず,いまもってよくわからない解釈が国内学会でも跳梁跋扈しているのは,自由度が高いのか,お気楽なのか,謙虚さがないのかわかりませんが,私個人としては大変恥ずかしい状態だと思っています。


セメント協会のC-S-H研究委員会では,このあたりまで論文から深読みできる若手研究者が1名でも増えれば良いと私は考えています。今,日本に必要なのは底上げではなくて,トッププレーヤーの育成です。トップが低いと業界全体が沈没します。足をひっぱるんじゃなくて,優秀な若手を見つけたら,業界全体で投資するようにしていかなくてはいけない。そのためにはセメント系材料では科学的視点や他分野との意見交換が国内では大幅に欠落しているので,若手をなるべく別分野や国外に出す,あるいは助教やポスドクを他分野から連れてくるような努力が必要と思います。
名大では,現在,その仕組みづくりを検討しています。

5/20/2017

もう,5月だった。(4月の話)

4月がすぎて,すでに5月でした。これでは,全然情報公開になってない・・・。

3月後半ですが,最終週は次年度からの研究開始を踏まえた打合せが多くて,ほとんど研究について考える時間(正確には,データを評価したり考察したりする時間)がありませんでした。予定表を見てみると,卒業式の日以外には,2件以上の打合せが全て入っています。

4月4日には,E. Gartner博士が名大に来られて講演を行いました。CO2低減を前提とした次世代のセメント系材料のあり方など,EUの動向等を詳しく話題提供いただきました。


Ellisとは,論文も共同で書いており,この間に査読修正を行っていました。無事,論文が公開されました。
この論文は,C-S-Hがなぜ,C1.7SH4.0の組成をもつのか,そこで水和がとまるのか,そして非回復の変質とはなにか,を示したものです。今までのデータをすべて同一のモデルで解釈できる点が画期的です。

4月・5月で新しく仕事が増えました。一つは,SIPの土木関係で,セメント解析研究会というものが立ち上がり,その副主査になりました。もう一つ,福島第一の問題に関連して,コンクリートに関わる研究として,NDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)における検討委員会の主査を務める事になりました。いずれも,かなり大事な仕事ですので,出来る限りのことをしていこうと思います。
4月の最終週には,ConCrack5の国際会議が東大でありました。学生のJangくんが若材齢の時間依存性を考慮したRCのひび割れ構成則を提案して,マスコンひび割れの予測方法を提案しました。画期的とは言いませんが,今まで明示的に考慮されなかった時間依存性の問題をちゃんと取り扱ってみたという点には価値があると思います。会からは,論文化の推薦をいただきました。Jangくんが対応できるようなら,ぜひ,論文化したいと思います。