ベネチアでは,リアルト橋の調査ができるという話もあったが,大学間の争いの中でそのプロジェクトは消えて行った。まあ,しかし,あんなに有名な橋を日本人がそもそも調査してよいのか,というのは現地に行って理解した。あれはイタリア人の手で調査をすべきものだ。
我々は,メストレとベネチア本島をつなぐ,1920年代にできたとされるレンガ造の橋(数kmある。)に関する調査許可を得られた。こちらは約100年のレンガの劣化をみたわけだが,多くは,波による力学的作用であり,化学的浸食のようなものは見られなかった。面白いのは,おそらくレンガの焼成温度の違いに起因するものと思われる浸食の違いがレンガによって見られたという点である。あるいは浸食が開始された点に支配される初期値問題かもしれないが,形状として非常に多様な浸食が見られる。
まあ,しかし,これは材料学的興味であって,それが橋梁の維持管理とか生涯予測に影響を及ぼすとは思えないので,些末な話ではある。
その他,一棟,ベネチア本島内にある塔を調査許可が得られるはずだったが,とある理由でダメになった。
渡航前,ベネチア内に関する教会に関する調査許可はバチカン系である宗教局の管轄であり,そこからの許可は得られていなかった。一方,イタリア内での調査許可については文化財保存局から,全権の許可を頂いていた。
今回のベネチア訪問時には,パドヴァ大学のモデナ教授に宗教局に同行していただき,宗教局の許可を得ることに成功した。しかし,次に文化財保存局にいったら,許可をもらい,書類まであるのにその教会の鍵は貸さないといわれてしまった。それで今回の調査では,当初想定していた塔についての調査ができなくなってしまった。
いろいろ聞くと,宗教局と文化財保存局には確執があるらしてく,どうも難しい問題にぶち当たってしまったらしい。人の問題なので,ごり押ししてもしょうがない。しかし,日本から7名のパーティで,教授を含めて調査しているので,本件については,人件費もろもろ考えれば1000万くらいがパー^である。
正直いって,これは相当に舐められているな,とも思うけれども,いかんともしがたい。日本人の研究者待遇より,うちわの権力争いの方が大事なのはどこの政府も一緒なんだろう,と思う。
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