1/30/2011

分離圧理論の問題点,今後の課題

先週の一連の講習会の最中に,分離圧理論の今後の課題などをご指摘いただいた。表面張力理論との差別化の問題もあるので,少し考えて見た。

1)
吸着水の吸着厚さ変化によるポテンシャル変化を駆動力としている点ではまった同じ形をしている。

2)
表面張力理論は,固体の体積変化を変形のターゲットとしており,分離圧理論は固体間の空間に変形のターゲットをおいている。表面張力理論では,固体の体積変化の反力に固相のバネを想定している。
表面張力理論においては,セメント硬化体などを対象とする限りにおいて,固相・吸着層の区分が難しく,かつ,固相のバネとは何かという問題が生じる。
分離圧理論は,閉鎖空間内の吸着挙動を想定しており,閉鎖空間に吸着したときに生じる分離圧に対して反力を受ける力の観点が不明瞭である。C-S-H間に働く力だけでなく,閉じた系であるとすると,これまた,固相の剛性も想定せざるをえない。
しかしながら,式の形として考えるのであれば,吸着層の変化によるエネルギー変化を駆動力とし,対応するコンプライアンスをセメント硬化体に求めるので,形として一緒になる。

3)
研究上の実質的な部分においては,表面張力理論では,実験結果のしわよせは,固体の剛性,(表面力変化に対するコンプライアンス)の評価にいく。私の提案した分離圧理論は,しわ寄せが分離圧曲線そのものにいく。つまり,定義からさかのぼって分離圧自体を求めているので,どのようなメカニズムでも吸収してしまう,ちょっとトリッキーな形になっている。
どちらも,コンプライアンスの評価ができていないので,現状での課題は残る。工学的有用性という意味では,私の提案した分離圧評価が,水セメント比や鉱物組成に依存していないので,やや有用ということになるのではないか,と個人的に考えている。

なお,この観点を整理しようと考えて,ヤング率・ポアソン比の空隙や含水率依存性についても評価を行っているが,今もって綺麗に整理はできていない。(相組成から予測できるようにはなったが,セメント間の力という観点での評価がまだできていない。)来月号の黄表紙とJCIの年次に五十嵐君が投稿したので,興味の或方は,パブリッシュされたら見てほしいと思う。


長岡の下村先生からご指摘いただいたが,これでは,正当性を示すことはできないので,別確度からも検証する必要がある。私自身苦心しているところではあるのだが,一つは,セメントの鉱物組成や水セメント比によらず,そのポテンシャル曲線が一つで示されるというのは,間接的に普遍性を示しているのではないか,と考えている。
もう一つは,最近提案しはじめた,線膨張係数との関係である。これも推察がうまく通ったので,ある程度のサポートになるが,それでも,一発証明というわけにはいっていない。

なお,Nonat先生のグループがC-S-H間の力を,AFMで直接測定しているが,そのときのC-S-H間の最大の応力は,30MPa程度であるので,私の分離圧で想定している圧力とは1,2ケタ異なっている。減衰の領域という観点では,同じくらいのオーダーになっているのではあるが。

最後の懸念事項としては,乾燥プロセス中もC-S-Hは変化し続けている。青野さんらのACT論文では50℃の乾燥でもC-S-Hの会合反応が促進することが示されている。なので,比表面積そのものもダイナミックなものである。だから,ヒステリシスも生じるわけである。ACTに投稿した論文の最後に書かいたように,この一連の変化は,C-S-Hとしては再現性の高いものになっている。

結局,私が提案している分離圧・水和圧理論は,C-S-Hの会合反応による物性変化・収縮駆動力変化・体積変化も包含したものを分離圧という形にとっており,それはC-S-H量の再現性の高い反応プロセスにサポートされて,全体的な挙動に汎用性がついている形になっている。

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