1/28/2011

76委員会

(本内容は、まだ、記載を変更・追記するかもしれません。)

水曜日は、76委員会の講演。体積変化と骨材の相性というタイトルで、講演をさせていただいた。石灰石骨材を高炉セメントコンクリートに用いると強度が(多かれ少なかれ)標準試験体の強度よりも小さくなる、(正確にいうと、たいていのコンクリートは強度が小さくなる。その影響が比較的大きいかも、という主旨であった。)という事実について、ケースバイケースであるので声高にアナウンスしてはいけない、というご指摘をいただいた。その通りで、私もその現象をアジるつもりはない。そもそも、建築分野を含め多くの方には、石灰石に代表されるある種の骨材は、温度履歴とともに強度の伸びが悪くなるという現象は一般的であり、今更観もある話題である。相性問題の一例として、線膨張係数が大きくなりやすい高炉セメントと線膨張係数が小さいといわれて久しい石灰石骨材をその典型例として例示したのだったが、引用が不十分で、適切な代表例として伝わらなかったのは反省点である。

建築では、温度履歴を経ると強度の伸びが悪くなるということはよく知られている事象であり、特に石灰石骨材を利用した場合には、そういった事例が顕著になるということは、かなり昔から知られている。二次部材メーカーの方も、ご存じのことではないか、と思う。
高強度コンクリートの場合には、こういった問題が生じやすいことを、NewRCプロジェクト前後において、構造体コンクリート強度の観点から、さまざまなデータが示されて、建築では定量的な議論も行われた。
(でも、石灰石骨材は案外もろいので、石灰石骨材を高強度に用いるのは、特殊ケースだと認識している。)

建築では、構造体コンクリートの管理という概念が浸透しているので、そのケースバイケースにおいて、ちゃんと実構造物の強度・品質を確保するように、強度を割り増して調合設計をしている。
こういったものは、JASS5において、S値、という形で整理されているものだ。
これは先人の方々がつくった、建築側のよいシステムの一つであり、構造体の性能を確保するという観点において、非常に合理的な方法であると思う。

コンクリートという非常にうまくできた複合材料は、バランスがよすぎるので、なにかひとつの性能を突出させようとすると、たいていは弊害がでる。しかし、それは運用と全体設計でうまく調整して、構造体の中でよい性能を伸ばしてやるべきものだ。よい方向ばかりを喧伝して、負の方向に気を払わない、というのは研究者や技術者のやることではない。よいところを伸ばすためには、悪い部分をカバーしてやる配慮が必要だからだ。マイナスが小さくて、その影響の程度が無視しうるということであるのであれば、それを払しょくするデータを示す必要があるだろう。

しかしながら、そういったデータは、そもそも取得されていないとは思うのだが、多くは公表されていない。よい部分は出しやすく、悪い部分は出しにくいから、というのも別の一因かもしれない。しかし、研究者という立場では、それをするわけにもいかない。

研究者は、悪いところをほじくり返してばかりいるという指摘もある。頭の痛い話である。本人にとっては良心でやっている部分もあるし、一方ではそうでもないと研究が無いからやっているのだというような揶揄もあったりする。その重要性は萌芽期には認識されないし、評価が行われるのはずっと後の場合も多いので、これもまた、研究者の口を封じることが難しい点である。しかし、ある種のバランスを保ったコンクリートというのは、本当に素晴らしいので、そのバランスから崩れたものに対して、よい点・悪い点を整理して、悪い点を補いながら使うというのが、よい構造物への一歩であると私は考える。


私は、石灰石骨材を高炉セメントに用いる場合には、注意が必要かもしれない、という指摘を行った。体積変化という観点からは、複合材料としてバランスが悪くなっているからだ。
ご指摘いただいたとおり、石灰石骨材にも、高炉セメントB種についても、ばらつきは多く、一概に言えない部分も多い。石灰石骨材だけがわるいか、といえば、もちろん、ペーストとのギャップの観点からいえば、線膨張係数の小さい骨材一般の話であるので、硬質砂岩のある種も例外ではない。そして、ある範囲の差であれば、影響はほとんどなく、驚くほどのわるさなどは確認されない。その差がどの程度なのかということは、残念ながらわかっていない。繰り返すが、建築では高温履歴を受けたコンクリート強度はたいていの場合に低下する(強度の増進が停滞する)ので配慮が必要という態度で一貫している。
であるから、石灰石骨材だけが、ということについては撤回させていただいて、体積変化の観点からミスマッチがある場合において、という形に言い換えたい。

研究者であるので、どのように材料を用いるべきかは、今後、責任をもって示していくつもりである。
(講演では、そのつもりで、2例ほど対策を提案させていただいたのではあったが)

今読んでいるローマ人の物語にも繰り返して出てくるカエサルの言葉、「人は自分が見たいように見る」というものがあるが、そうならないように自分を律しつつ、研究に取り組みたいと思う。

多くの表裏のないデータ・意見が集約され、よいものをつくるためにどうしたらよいかが、おのずとわかるようになることを望む。そのためにも、今後とも、さまざまな意見交換・情報交換をさせていただきたい。

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