5/29~31はセメント技術大会がありましたので,29日の授業後,東京に移動しました。
セメント技術大会では,その他のプロジェクト関係の打ち合わせもあって,セッションを多く聞くことができませんでしたが,いくつかの点で興味深い発表がありました。
一方で,検討の精度,背景,目的などがミスマッチなもの,過去のサーベイが十分ではないもの,イントロ自体が盗作のものなど,困ったものを散見しました。
私の研究を引用したことくらい明示してもなにも問題ないんじゃないかと思いますが,自分の研究成果のようにイントロで解説されますと,私としては,もはや困惑するばかりです。やれやれ。
さて,面白い発表が少しありましたので,コメントをしてみたいと思います。
膨張材の膨張量が,母材セメントの影響を受けることは既知の問題で,最近では,たとえば,JCIマスコン指針2008の解説において,異なるセメントを用いた時の膨張材を混和したコンクリートの挙動についてよくまとまったデータが示されています。詳細であれば,JCIの近年の膨張材い関する委員会報告などに詳しいです。
この時,高炉セメントB種を母材とした場合,自己収縮量が卓越するので,普通セメントと比較すると,膨張量がやや小さくなる,というように整理されています。(会場でもそのような指摘が某S社のSさんからありました。)
また,セメントの膨張挙動を律速しているのは,膨張材の反応と母材が形成するコンクリートの骨格・剛性のタイミングです。
たとえば,収縮低減剤と膨張材を併用した場合に,膨張材単体より膨張挙動が大きい,あるいは収縮低減分を考えても,それよりも大きく,相乗効果があるとされています。
これは,収縮低減剤が凝結遅延作用を有しているために,膨張材の膨張効果が大きく出るためであると考えられています。
低熱ポルトランドと膨張材を併用した場合においても,エーライト量が少ないので,骨格の形成が相対的に普通ポルトよりも遅いので,膨張効果が出やすい,と考えられます。
しかし,今回,膨張において高炉スラグ微粉末を混和したものの方が大きくでる,という結果が発表されました。この結果は,どのように整理したらよいでしょうか。昨日,研究室のゼミで,今後,どうやったらこの論文が面白くなるか,という形で解説したので,それについて記載してみたいと思います。
1.水和生成物の観点からの整理の場合
まず,膨張材がエトリンガイト系,ということなのでエトリンガイトの生成について検討してみたいと思います。エトリンガイトは,石膏,酸化アルミ,および水分によって生成します。酸化アルミは,ポルトランドセメントではアルミネート相,フェライト相が供給源であり,高炉スラグ微粉末も供給源になります。石膏は,セメントにあらかじめ混合されているし,高炉スラグ微粉末を混和する場合は,収縮制御や凝結制御のために加えられることが多いです。
ただし,石膏には,無水,半水,二水の形があり,普通ポルトの中は主として二水石膏・半水石膏です。流通している価格は,(可溶性)無水石膏が安いので,後添加で入れる場合,無水を入れる研究もままあります。
私の高炉スラグ微粉末の研究でも,無水を添加しています。
注意するべきは,それぞれの石膏で溶解速度,あるいは反応速度が異なる点です。
エトリンガイトの生成速度の観点から,両者を比較する場合,液相中のイオン濃度の変化はもとより,出発物質についてどのように共通とさせるかが問題です。
速度・量の議論をするのであれば,石膏の種類,量は揃えないと相対的評価というのは難しいように思います。
より詳しくやるのであれば,母材セメントにおけるアルミネート相,フェライト相の反応率も同時に測定し,また,高炉スラグ微粉末についても,選択溶解,あるいは日鐵の佐川さんがやられているようなガラスを結晶化して,リートベルトで反応率を同定する手法が望ましいでしょう。
こうすることで,供給源の挙動と生成物の挙動がわかります。
また,水和生成物側についても,私も学会中に指摘しましたが,石灰石が存在している場合,注意が必要です。石灰石が存在している場合には,おそらくヘミカーボネート,モノカーボネートが生成します。そのため,供給源側からのアルミの供給が,水和物の生成プロセスにどのように影響するかを評価する必要があります。カーボネート水和物の膨張挙動というのは,私はわかりませんが,それらも含めて評価するとより楽しい研究になります。
セメントの混合材において,石灰石が入っている場合には,たとえば,膨張材の反応系も変化するかもしれず,これは非常に興味深い研究テーマです。
また,石膏については,溶解速度だけではなく,C-S-Hに吸着することが知られているので,この点について評価することも,膨張材の挙動を評価する上で面白いと思われます。DEF(遅延エトリンガイト生成)のメカニズムの一つにC-S-Hの石膏の吸着挙動が影響として考えられています。このことから,初期にエーライトの反応がすすみ,C-S-Hが形成されるときに,石膏を吸着するので必然的にエトリンガイト生成量を変化させる作用をC-S-Hは有します。
高炉スラグ微粉末を混和した場合には,相対的にエーライト量が少なくなります。高炉スラグ微粉末が析出サイトとして機能するため,エーライトの反応が促進する効果を考慮したとしても,エトリンガイト生成タイミングまでに析出したC-S-H量が小さいとなると,エトリンガイト量の生成量に差がでてもおかしくありません。
最近では,バッファリングエフェクトとして,研究が欧米で盛んにおこなわれておりますが,このあたりも,膨張効果を評価する上でも非常に面白いでしょう。
加えて,膨張性エトリンガイトと無膨張性エトリンガイトという議論もあります。DEFでは,C-S-Hに囲まれたエトリンガイトのみが,破壊的膨張を有することが知られています。たとえば,エントレインドエアの中に析出するエトリンガイトには膨張性が無い,というわけです。この観点で考えた時,いきなり溶解している石膏よりは,C-S-Hに吸着している石膏の方が,膨張性エトリンガイトに寄与しやすいかも,という仮説もなりたちます。
SEM観察の重要性は,まさしくこの点にあるのではないかと思われます。
と,昨日ゼミで思いつくまましゃべったことですが,言葉にすると存外情報量が多く,ここから,骨格の話について入っていったわけですが,なかなか大量です。今日は,ここで終わりにします。
博士の1テーマには十分なるので,ぜひ,どなたかやられると良いのではないでしょうか。
うちの研究室でやってみたい,という方がいらっしゃれば,ぜひ,連絡ください。(笑)
0 件のコメント:
コメントを投稿