内容的には,ここ3,4年やってきたもので1,2年の間に対外発表したもので,セメントペーストの処女乾燥化の変質とそれがコンクリートの諸物性にどのように影響するかというものです。コンクリートの物性というのはマトリクスであるセメントペーストの変質と,骨材とペースト部分の体積変化ギャップによって生ずる損傷から説明できるという流れで解説しています。コンクリートの強度等はAIJの大会に少し公表しましたが,多くは現在ACIに投稿中のものだったので,handoutへのデータ公開が出来ませんでした。
質問をいくつかいただきました。今日はその一つについて少し詳細に意見を述べたいと思います。
NMRの結果であきらかになりましたが,乾燥下のC-S-HはAlの介在によってSi-鎖長が伸びます。これは29Si-NMRでも,27Al-NMRでも検出されているのでほとんど間違いが無い現象と考えておりますが,問題はそのAlのソースです。
XRD/Rietveld解析を実施して相組成を同定するとわかりますが,Ettの生成量が落ち着いた後のC3Aの反応は,どの結晶相の形もとっていないのでLDH型のC4AH13(or19)になっているのではないかと我々は考えています。Al(OH)3になっているわけでもないし,C3AH6は定量しているが,極めて少量であることが背景にあります。
面白いのは水和後の長期的な乾燥下では,エトリンガイトの定量値が40%RHくらいまで減少し続けます。この挙動はN2吸着で検出される,窒素吸着BET比表面積とまったく同じ挙動をしており,N2吸着されるメソ空隙部分に生成しているエトリンガイトが,プレッシャーソリューションによって分解・溶解したのではないかという仮説を提案しました。
後藤先生は,この仮説に疑問を呈されました。駆動力としてそのようなことがありうるのか,ということです。仮説で実証しておりませんが,なかなか証明は難しいです。岸先生も膨張材として利用されていることからそういうことがありうるのか,ということをおっしゃいました。
私の考えは以下のとおりです。
プレッシャーソリューションは,火山の噴火予測などで問題となる岩石クリープの要因として深く研究されており,東大の清水以知子先生が熱力学的枠組みを提案されています。また,東工大の中島先生は,化学ポテンシャルの差異は当然のこととして,速度論的に支配的な表面拡散のデータが蓄積されていたりします。表面拡散現象と結晶表面における化学ポテンシャル差が支配的現象でありますが,圧力下の化学ポテンシャル差は当然の問題と考えられています。
C-S-Hのメソ空隙内で膨張作用を生じているエトリンガイトは,反力としての圧縮応力を受けていることは事実です。私がいいたかったのは,短期的には膨張作用を生じさせているということは,あきらかに結晶先端では圧縮応力が生じており,化学ポテンシャルが変化しています。このことは,もしエトリンガイトの周囲に,構成要因である原子の拡散が可能な水溶液が接しているのであれば,ポテンシャル差に応じてゆっくりと結晶成長の別の面,あるいは別の結晶に移行して平衡状態を目指すと考えられる,ということです。
エトリンガイトがモノサルフェート(LDH型)に移行するプロセスの詳細を私は存じませんが,そのような駆動力が石膏の介在によって生じうるということは,乾燥やその他の化学ポテンシャル変化であってもその移行を生じさせる駆動力になりうるのでは,と考えられます。
C-S-H表面に硫酸イオンが収着することが近年,モデリングの要となっていますが,そこから考えても,SO3イオン近傍のEttが圧縮応力による力を受けて,モノサルフェート系列の原子配置に変化することは起こりうると考えられます。
LDH型になるということは,C-S-HとCa-レイヤーを共有することが可能となるので,(たとえば,Gartner博士やTaylor博士が指摘しているように),C-S-Hの一部とCa-レイヤーを共有しつつ,Si-のリンケージも併せて拡大するということが可能なのではと思われます。
Third Aluminate PhaseのNMRピークが乾燥によって増えるということは,Ca-レイヤーの延長がAlを介しても生じうるということを意味していて,これも乾燥下でのC-S-Hの結晶生成に関与していることを意味しています。
というわけで,このあたりを数値計算によるか,あるいは二相自由度系で実験するかは別として,圧力下のエトリンガイト挙動や,C-S-Hとの混合層での挙動というのは,重要と考えられます。
DEFの基本的メカニズムとも共有される話であるので,できれば,セメント化学系や地質系の人と話をすすめたいと思っていますので,
興味のある人,どうか一緒に研究を進めましょう。声をかけていただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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