12/30/2013

2013年を振り返って

毎年,年の瀬は一年を振り返るどころか,正月にどういった報告書のパーツを仕上げておくかとか,東京でどこに挨拶にいくかとか,忘年会で取り過ぎたカロリーをどこで落とそうかとか,いろいろ考えているとあっという間に終わってしまう。今年は昨年よりも東京出張の回数を少なくなるよう仕事の最適化をはかったが,それでも週1.5回くらいは東京に行っていた。これは,通常の委員会仕事というよりは,国のプロジェクトに参加させてもらったり,各種の受託研究の内容が高度でさまざまな人と共同で仕事をしなくてはいけない部分が多いことによる。多分,AIJやJCIの委員会は,昨年よりは少なくなっているのではないかと思う。



コンクリートの放射線影響に関する研究は,いよいよ国際的な活動が大きくなってきた。ノルウェーIFEでの照射が9月から開始され,想定した現象があっても計測装置の不具合や我々の考えたリスクを実施側が考慮できていないトラブルなどが散見され,その都度対応を行い,必要に応じて予備実験も行った上で,データ交換をしながら装置の改変を行ったりしている状態である。3年後には確かに良いデータが蓄積されることが期待できるが,現状では満足という状態ではない。
国際的には,米国,スペイン,ドイツ,チェコなどが廃炉からコンクリートを取り出して評価するという検討を開始しており,フィンランドは照射実験を行っている。知見交換が原子力の安全に貢献することから知見交換会をラウンチすることになった。主導権は現状のところ,米国・ORNLにある。
一方,我々の検討は,材料科学からコンクリート工学,建築構造工学にまで通ずる一気通貫のプロジェクトスコープをもっており,着実にこなしている。データ検証には多数のデータがあることが望ましいが,いろいろ検討してみると,それほど海外データが必要なわけでもないことに気づく。
我々のスコープは米国ORNLのANSでの原稿に引用され(というか,パクられ)ているわけだが,それくらい我々のプロジェクトスコープは一般的なスコープを持っている,ということだろう。
私は,今後,このプロジェクトをまずは国際的に発表しつつも,日本国内でのベースの底上げにつなげていきたいと思う。そこでは,大変いいにくいことだが,いくつかの大企業の保守的な思想というものをぬぐい去っていただく必要がある。事実は常に事実であり,科学的合理性のもとに安全を求めるのが原子力である。偏った情報で批判をかわし,しばらくの安寧を求めるという姿勢には,断固として反対であり,今後,研究者の立場から各所で主張していきたいと思う。
いわゆる対策が無い間は公開しないという原則の問題については私個人の意見を申し上げていきたいと思う。
話し戻って,今後,日本の税金をつかったこの一大プロジェクトについては,国際貢献の形で日本が主導的役割が握れるよう,適切に公表していきたい。

その他,スピンアウトして生じたセメントペーストの変質,コンクリートの乾燥・加熱による変質については,それぞれCCR,ACIに投稿した。前者は,現状,Miner Revisionの状態でもうすぐアクセプトされるだろう。ACIについては,よくわからない。最近のACIの査読は,やや偏執的なところがあって,かなりがっかりしている。あまりにもくだらない査読が帰ってきたら,取り下げて,欧州系の論文に投稿する予定だ。シリカ質系骨材の体積変化と鉱物組成の関係については,名大・博物館の吉田先生に連名になっていただき,地質分野から見ても大きな隙の無い状態としてACIに投稿した。こちらは先週投稿したばかりなので今後,楽しみである。これらはいずれも照射研究の前条件としてクリアしなくてはいけない課題だった。これらがあきらかにならなければ,ガンマ線,中性子線単独の影響と熱影響が混同されてしまい,適切な評価ができないわけである。
この点が適切な時期に解決できたことは非常に大きな前進である。
一方,材料試験ベースの問題と実部材性能の問題という課題が残っている。これらは,基本的には解析で解決するというスタンスではあるが,今後,実部材のコア抜き試験を始め,数値モデルを検証する形で詳細な分析を実施していきたい。今,これについては種まきをしているところだ。


2013年度の研究室は,おそらく名大・丸山研史上,もっとも有能なスタッフがそろった時代だったといえる。現在のM2は,全員,セメント化学,コンクリート工学に関する知識,化学分析のノウハウ,数値解析の基礎を徹底的に理解しており,どこの研究所であろうと,また,どこの企業の社会人になったとしても,文句の無い人材に育った。毎週のゼミで理論的思考とはなにか,データの評価手法,ビジョンをもってプロジェクトを実施することの大切さを再三示してきたつもりだが,かれらについては十分にそれを理解してくれたと私は思っている。M1は,さまざまな応用面の研究を実施した。一人は福島事故以降の放射線の問題に取り組んでもらい,異分野の技術を建築工学にいかに応用するかに取り組んでもらった。もう一人は,セメントペーストの材料科学をコンクリート工学につなげる実験を多数行ってもらい,かなりの成果が出た。いずれもさまざまな分野境界型の研究を実施しており,文句の付けようが無い。B4は,スタートダッシュが遅かったのは私の落ち度であるが,着実に力を付けている。D学生は実験・数値解析の両輪を回せる五十嵐がD3として存在し,XRDをはじめ多くの分析を実施できる全もよく頑張っている。
寺本・五十嵐の時代のあとにできあがった一つのピークであろう。
残念ながら2014年は,これを継続することができないが,外との連携を密に行い,攻撃点の各所の突破力は維持したいと考えている。研究室のレベルに波ができることは致し方が無いが,少しは社会から期待されるようになった私としては,全部のレベルとはいえなくても各戦場で突破力を発揮できる研究教育をおこなっていこうと思っている。
今年は,科研で勅使川原研と強く結びついたテーマで申請した。科研は(傍目には)どうも高望みをしているとされているようだが,現状の建築工学・コンクリート工学に必須のテーマを申請したつもりなので,査読者の方には徹底的なレビューをしていただきたいと思う。
来年は,勅使川原研の研究と丸山研の研究が融合し始める最初の年になるだろう。


その他,ここには書けないが,共同研究を数社とさせていただいている。多くのところで新しい発見があり,技術開発のヒントが芽生えており,さらに数年後には社会にそれらの一部でも出ると良いと思っている。よしんば,それが出なかったとしても,共同研究の結果として得られた成果は,教育的効果も含めて社会に還元されるように努力したいと思っている。
現在,数社からあらたに提案をいただいているが,来年度のキャパシティと問題の本質度,それと私の不可欠性から,都度,真摯に対応させていただく所存である。
(後日追記:不可欠性というのは、世の中には良い組み合わせというのがあって、私よりもっと適切に協力者となれる人が多いので、そういった組み合わせになっているかという観点からの検討である。なんでも、自分がというよりは、やっぱり、効率性の観点からも、適切な人と組んだ方が良いということは多々ある。)

本年は大変にお世話になりました。来年もどうぞ,よろしくお願い申し上げます。

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