9/23/2013

イタリア出張

ラクイラの復興について考えたこと

○復興のスピード,その順序,原理
ラクイラの復興は非常に遅い。東北地方との比較で考えれば雲泥の差である。2013年9月時点において復興が決まったものは,中心市街地における公共建物,特に,市庁舎,教会,大学関連施設,その他の公共施設である。個人の住宅は,手がついていない。
かれらの復興は,必ずしも,現状復帰ではない。中心部で必要不可欠な部分をまずなおし,その上で,経済の回転とともに,市場原理に則り,必要部分から手を入れることを期待しているようだ。
これは,すぐに現状復帰原則にもとづいて元に戻したとしても,失われた人,秩序,活気は元に戻らないと考えていないことを意味する。新しい復興には,その場で生じる経済の活動の動きが必要と考えており,それにのっとる復興は,時間はかかるが,継続的であるという点で至極まっとうな考えのように思われる。





○建物に対する対応
中心市街地を散策して,建物の応急対応について確認した。組積造,しかも壁はダブルリーフ構造という二重壁構造になっているという特徴があること,そもそも組積造は,石材,レンガ等を積んで構築した構造であり,連続体構造でないという背景を前提に考える必要がある。
まず,2010年度時点で気がついたのは,柱のPPバンド,アーチ下の単管構造,木の組物,窓の中にある木の組物である。
PPバンドは,柱や建物全体が,構築している石がずれている場合に利用されており,柱がばらばらにならない様に対応をとったものである。一体構造でないため,水平方向の石をひとまとめにすることで,摩擦面積を稼ぎ安定性を増加させるとともに,個別の剥離・剥落を防止するという効果を持つ。これは層の一部崩壊による上層構造の面外方向への崩落,および二次被害防止を目的としている。
アーチ下および窓内の組物は,いずれも上の梁の落下を防止する。組積造では,開口部,特に窓間やアーチの頂部からひび割れが生ずる。これは,面積が不足し,せん断によるひび割れである。このひび割れから二次的な被害が生じないようにするためには,開口部周辺の部材の崩落を防止する必要がある。このために組物を用いる。
組積造の面外変形は,木の組物,および単管パイプのトラスによって留められている場合がおおい。また,鉄骨+鉄筋等で建物全体をまとめたり,廊下単位,壁単位で取りまとめるものもある。

ダブルリーフ構造であることを考えると横方向に,過剰なプレストレスを入れることは補強にはならない。部材自体が荷重に耐えられないからである。力を入れる量は補強する方向,場所によって変化する。壁の長手方向には力を加えてもよいが,面外方向に大きな荷重を入れることはできない。柱自体にプレストレスを入れることはしない。組積造であるため,水平方向に連続でなく,プレストレスによる曲げ力の導入は意味をなさない。
安定性の増加は,重心位置の評価,安定的に地面に自重を流す経路を確保するという見方が必要である。


○優先順位 道路からの距離
国は,輸送のため,道路の確保を再優先とする。そのため,個人の建物,公共の建物関係なく,道路に隣接し,崩落による影響がある場合には,すべて補修を施す。
教会等の建物であっても,二次被害が生じない場合は,補修費用は個人(団体)自身によるものとなる。この観点からみると,道路沿いの補修されている手順というのは明確となる。

補強は,基本的に二次被害が生じないということを第一とする。上述の道路への影響,通行人への影響等がもっとも重要なファクターとなる。補修は,ばらばらにならないという観点でセメントを持ちいることも,粘土を用いることもあるが,基本的に連続体ではないので,応力伝達がスムースにいくこと,重心に偏りがないこと,重心位置の移動があったとしても,支持能力に影響がすくないこと,ということを目的として実施される。


○中心市街地と周辺地域,新興地域
復興の考え方と街の構造は密接にリンクしている。中心市街地は歴史的建造物を有する。市庁舎しかり,教会しかり。これらの中心市街地は,重要構造物に再投資が行われることにより,徐々に復興がなされる。周辺地域は新興住宅地であり,古い建物をそのまま保存することはあまりない。壊して,あらたに再建するという手法が取られることが多い。多くは,住居であり,オフィスビル,商店街等も保存するということはあまりない。
中心地は,公共建築物以外も組積造の歴史構造物である。そのため,復興には大きなお金がかかる。私的建築物であっても多額の金額が必要となるため,その復興をどのように制御するかが,町並み形成に大きな影響をおよぼす。大学の建物などは近代的なRC造になっている場合もある。組積造で復興することの経済的意義が問われている。
法令等があるか,復興ルールの存在については確認の必要がある。


○組積造で元通りにすることの意義,地震スパン,コスト,文化の継承
組積造については,要求性能は地震に耐えることは含まれていない。組積造は耐震構造ではないい。現状,組積造の構造体に生じた大きなひび割れは,場合によっては荷重を与えて部材を一部元の場所に動かすこともあるが,それでも完全にもとには戻さず,ある程度のところで粘土やセメント,その他の材料で隙間を埋めて終了とする。
これは,ひび割れの存在によって,面外方向への変形が生じやすくなることを避ける,層の一体性を確保し,荷重の下部への伝達をスムースに行うとともに安定性を増加させる目的で実施されている。
地震の間隔は数百年,ラクイラの場合は前回が1700年台に前回の地震があった。組積造の修復コストは,RC等にくらべて格段に高額となる。人件費が膨大にかかるからだ。それでも,彼らは,建物についてもとに戻すことを原則としている。
街の中心である建物,宗教的な建物,歴史的にも必要と考えられてきた建物は,また,同じように地震被害にあおうとも,再び修復ができる見込みであれば復元を行う。

一方,ミランドラからフィナーレに移動する途中でみた街の教会は,復旧せず,まったく新しいRC造の,それも面積はかなり縮小した形になるそうだ。すでに計画が発表されている。街の中心であっても,街の規模,財政規模,それそうおうに臨機応変に対応が行われているようにも思う。

私がここで感じたのは無理のない復興,というものだった。



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