12/12/2010

小論文:乾燥収縮に及ぼす骨材寸法に関する考察

今回はカジュアルな文面ながら,ブログで論文を公表するということを試みてみたい。査読付き無しの論文であれば,タイムリーに情報公開をした方がよいのではないかと思っている。特に最近委員会などでの,研究テーマのオリジナリティなどが曖昧になっている場合があって,不愉快な思いをしたこともあったりで,査読付き無しではあるが,論文のつもりで記載する。
幸いにして,ブログというのはタイムスタンプももたれるし,その時点から,世界中に発信される。英語で記載するほうが佳いのは論を待たないが,まずは国内へ,ということで。
なお,このような試みは,多田眞作博士がすでに,JCI(2009年3月号)に記載している。

乾燥収縮に及ぼす骨材寸法に関する考察
丸山一平


1.はじめに
最近,収縮と骨材の話を少しやっている。ペーストの力学挙動については,いろいろ外には出せていないデータも多いのだけれど,おおよそわかってきたから,そろそろコンクリートでやっていこうということである。引張クリープの湿度依存性もさんざんしっぱいしたけれども,やっと一系列データがとれつつある。いやあ,クリープってなんなのか,ということは改めて議論する必要があるとおもうんだけれども,挙動としてはこんなもんか,と。話がとんだ。

さて,骨材の話に戻ると,今年のAIJではおもしろい論文がいくつかあった。
一つは,北方建築総合研究所の松村さんらの論文で,細骨材率が小さいほど収縮は大きいという結果,である[1]。

2.骨材寸法と収縮影響について
竹本の斉藤さんと出したのは,私自身は複合則理論の成立根拠が不明で,ある条件で適用できるツールと認識していたので,その傾向をちゃんと把握するために,細骨材だけ,粗骨材だけといった系で乾燥収縮を測定した[2]。

たぶん,昔にはこういうことをやった人がいたと思われるのだが,文献は探せなかった。ACIでは強度やヤング率と骨材寸法の図はある。川上英男先生も博士論文でそういった検討をされていた。JCIにもたくさん論文がある[3]。乾燥収縮のデータ,きっと馬場先生はやっている思うんだが,見つからない。知っている人がいれば,是非,メールをください。

で,その結果が下図である。ここに示されるように,同一骨材量でもその収縮への影響は異なっている。

(なお,連名者のT先生は,当初本研究を否定されていたんだが,本研究がAsCOTのひび割れ委員会で実施が決定した論文なので,連名に入ってもらっている。)


図1 骨材寸法,骨材量とコンクリートの乾燥収縮ひずみの関係

そもそもの議論としては,2009年で猪飼さんが発表したように[4],完全に線形な関係が骨材・ペーストにあるのであれば,そしてひび割れがあったとしても,破壊エネルギーが一緒なのであれば,収縮の関係は一緒になる。骨材の寸法依存性はないはずである。


図2 乾燥による骨材周囲のひび割れに関する計算結果:骨材とセメントペーストは完全付着。骨材は完全弾性体として計算


図3 ペーストの収縮量とコンクリートの乾燥収縮の計算結果


3.骨材と遷移帯,体積変形に関する考察
このことから,考えるに,骨材周囲の遷移帯とかブリージングが重要な役割を果てしていると思われる。たぶん,流動性能から決定する水膜=遷移帯が,骨材抵抗のクッションになっている。遷移帯は,骨材寸法に依存せず一定になるがため,結果として,遷移帯/骨材直径比の関係から,見かけの剛性(あるいはペースト収縮に対応する剛性)が決定するというのが現在のところの仮説である。

なお,遷移帯というのは,難しい定義であって,ナノインデンテーションなどで実質的な計測がなされている。Monteiro先生の教科書などには[5],顕微鏡写真で特定できるというようなことも記載されているが,実際はグラデーションをもっていて,正確な定義は難しい。

我々の研究室では,中性子ラジオグラフィによって打設直後からの骨材周囲の挙動を評価した[6]。この際,水分分布からみれば,骨材周囲には遷移帯だけではなくて,0.5mmくらいの厚さで,水セメント比が周囲よりも大きい範囲が存在することがわかった。この領域は,乾燥収縮に対しても緩衝帯として働くに違いない。

図4 中性子ラジオグラフィによって確認した硬質砂岩周囲の水分子の存在比率の比較(材齢1時間と材齢24時間,水セメント比は0.25)

遷移帯は,目視で確認するよりも[7],こうした統計量で評価することが今後は重要かもしれない。加藤先生らが昔行われた,細骨材と遷移帯の量を統計的に処理する手法は,さまざまに応用が可能と考えられる[8]。ながらく,日本では遷移帯の研究というのは,欧米での着目具合に比べてずいぶんと少なかったように思うが,今後は,力学的にも,あるいは水分などの物質移動性を考える上でも,再度整理の必要な分野になると考えられる。

4.結語
乾燥収縮の問題はもとより,コンクリートをセメントペーストと骨材の複合材料として考えるのであれば,今後は,その相互依存性を評価することが重要である。すでにあまたの実験データはありつつも,まだ,コンクリート工学上の諸問題が解決されていないのは,メカニズムを評価するための実験が行われてこなかったからである。
こういった諸要素の解明を国内で効率的に行うことで,現象解明・性能評価・設計・材料選定が適切に行われるようになると考えられる。




参考文献
[1] 松村宇(北方建築総合研究所),桂修,吉野利幸:細骨材率の違いがコンクリートの乾燥収縮性状に及ぼす影響,日本建築学会学術講演梗概集,2010北陸,905-906,2010
[2] 齊藤和秀(竹本油脂),小林竜平,丸山一平,寺西浩司:骨材量と骨材寸法がコンクリートの乾燥収縮に与える影響,日本建築学会学術講演梗概集,2010北陸,915-916,2010
[3]http://data.jci-net.or.jp/data_html/13/013-01-1007.html
 http://data.jci-net.or.jp/data_html/22/022-01-2089.html
http://data.jci-net.or.jp/data_html/25/025-01-1054.html
[4]猪飼陽子,寺本篤史,早野博幸,丸山一平:コンクリートの乾燥収縮予測における構成則構築のための基礎的考察,日本建築学会学術講演梗概集(東北),pp. 247-248, 2009.8.26
[5]P. Mehta, Paulo Monteiro:Concrete: Microstructure, Properties, and Materials,McGraw-Hill Professional; 3 edition (September 26, 2005)
http://www.amazon.com/Concrete-Microstructure-Properties-Materials-Mehta/dp/0071462899
[6]丸山一平,兼松学,寺本篤史,早野博幸,飯倉寛,野口貴文:中性子ラジオグラフィによる骨材とセメントペースト間における水分挙動評価,日本建築学会構造系論文集,Vol. 74,No. 645, pp. 1905-1912, 2009.11
[7]たとえば,羽原俊祐,平尾宙,内川浩:多量の鉱物質粉末で細骨材の一部を置換したコンクリートの組織形成と物性発現,コンクリート工学年次論文集,Vol. 17 No, 1,325-330,1995
http://data.jci-net.or.jp/data_pdf/17/017-01-1055.pdf
[8]加藤佳孝,魚本健人:細骨材の量と比表面積が遷移帯形成に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,Vol. 20,No. 2,775-780,1998
http://data.jci-net.or.jp/data_pdf/20/020-01-2130.pdf

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