12/25/2015

しわす 2

JACT で先日の論文が今年度の”ACT three outstanding papers of the year”に選ばれました。大変嬉しく思います。


このモデル化,というのが今的かどうかというのは,私自身,自問自答しているところです。すなわち,なんらかの外挿を行う時に,今,もっとも信頼できるのはなんなのか,という点は今も常に頭の中にあります。

分子動力学計算や第一原理計算を使ったとしても,かなしいかな,それはやはり実験データの内挿でしかない。なぜなら,結晶構造しかり,含水率しかり,解析結果は,等しく実験結果との比較をもって検証されるからです。残念ながら,現在のC-S-Hの知見は極めて限定的であり,そして多くの人が(私を含めて)間違っていると考えざるを得ません。
膨大な,分子動力学計算論文が出ていますが,もう,あと1,2年で今までのものがすべて無意味だった,場合によっては,すべて取り下げということもありえるんじゃないかと思います。

熱力学平衡計算に資するNanocemのデータは,すばらしい。しかし,時間軸にこれを展開するためにもっとも重要なのは水分移動とイオンの移動です。水分移動については,結局,研究が不十分なままであり,平衡が(たとえ,セメントの中が過飽和で疑似平衡であったとしても)予測できたとしても,時間軸・空間分布を考慮するために必要な水分移動は,C-S-Hと連成しなくてはいけないため,やはり,あっているとは考えにくい。
フライアッシュセメントと普通セメントの硬化体中の水分移動の違いは,実験係数として取り込むだけであって,それがなぜなのかは,我々はまだ理解できていないのです。

また,Nanocemは化学屋さんの集まりらしく,物性との関係は結局強度程度でしか考えていません。私は,平衡計算を物性につなげるためのデータを欧米よりも先にとる,ということを2006年くらいから考えてやってきました。そういう観点からも,今回の相組成と関係したさまざまな物性データというのは,何度でも利用できるはずです。

また,90年代の数値解析研究は分析技術が本格化されておらず,コンクリート工学の人間が耳学問と周辺学問との整合性から,セメントペーストの中はこうなっているんじゃないか,という類推することしかできませんでした。現象に対する想像を通じて,諸物理現象に分解し,それを再統合するアプローチの数値モデルがすごくはやっていました。友澤先生のモデルもしかり,です。しかし,現在は違います。想像から類推したすべての物理・化学の素過程は,実験によって検証が可能となってしまっています。この検証をせずにモデル化するということは,工学としては依然としてあってもよいのでしょうが,学問領域として,あるいは欧米的哲学を基盤にもつサイエンスとしては認められません。日本においてもこうしたアプローチの数値解析モデルがあっても良いと私は思っていましたし,やれるとしたら,(当分のところ),うちの研究室だけだろうと考えていました。


こういったことを考えて,結局は実験データをもっている人間の行う解析が,もっとも確からしいのだ,ということがセメント・コンクリート研究の現在の限界だと再認識しました。
あっていればよい,というのは結局,実験データをしっているかどうかだ,ということだと言い換えられます。

この事実がこの論文の念頭にありました。もっと,格好良く難しい解析だってできたんですよ。
ですが,あえてその見えを捨てて,自分たちの作ったデータをいかに既存の概念をつかってリンクして,そして,水・熱の連成からコンクリート物性のさまざまな現象を紡ぎ出す,ということを行ったわけです。

一番大事なのは,モデルではなくて実験データです。ですから,この論文を読むときには,検証用の実験データの方を大事にしてもらえたらと思います。データは嘘をつきません。




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