・次回ICCCは北京となった。4回目の挑戦で,やっと獲得した。共産党の幹部が来て挨拶をした。世界の半分を生産しているのだから,という声もあったが,ICCCを中国でやることの不安は,誰しもにもある。たとえば,みんな学生が発表したら?とか。ISCCと一緒になってしまったら?とか。そんなことだ。
・グラッサー博士は80を超えても,まだ,中心で牛耳っている。ICCCの常設委員会の設立が打診された。別に悪いとは思わないけれども,これも次回ICCC対策としての布石かもしれないし,今回のスペインの管理が非常にまずかったことも要因かもしれない。今回,発表がスペイン語,というのが平気でなされていた。私はCONSECのメキシコ大会でおなじようなことに遭遇したので比較的免疫があったが,ICCCでそれは,失礼だという意見が多数を占めていた。皆,中国語で発表したらどうなるんだろう,とは皆思ったろう。
・アバディーン大学関係者が業界を牛耳りつつあり,それがCCRの編集方針などにも反映されつつある。敵対するデータが掲載されにくいことがあったという意見も聞いたり。(とは言っても,片方の意見ばかりに与するのは良くないので,あくまでも意見だ。)CCRは完全にセメント化学・サイエンスよりになっており,コンクリートの方は切り捨てる可能性もありそうだ。(アルカリ骨材反応があるので,そうでもないかな?)
・熱力学平衡計算に関するおおよそのデータが網羅されたこともあり,材料開発への道筋がおおむねとれたといえる。今回の発表は,それが色濃く出された。おそらく今回,一番インパクトがあったのは,デンマークのD. Herfort博士らの出した,セメントに石灰石と焼成粘土を組み合わせた場合の強度比較データであろう。アルミネート系の水和でカーボネートができるが,カーボネートはかなり空隙を閉鎖する効率が高い。これを焼成したメタカオリンを用いて強度設計するという論文が出された。実は,これと同じ事を太平洋セメントの平尾博士,山田博士らの出していて,高炉セメント+石灰石とかエコセメント+石灰石などアルミが多い系でのカーボネート系の強度と相組成の関係を出している。ACTに星野氏が筆頭でリートベルト解析の論文を書いているが,これにはヘミカーボネート,モノカーボネートがちゃんと含まれており,布石が打たれている。ところが,業界的にはこの業績は,D.Herfort博士のものになりそうだ。これをバックアップするのが熱力学平衡計算であり,これを用いたような後追い論文がいくつか出されていた。
・今後,熱力学平衡計算は,材料をやる人間としては避けてはならないツールだろう。なにしろデータベースもそろっているので,系の組成を知る上でも簡単きわまりない。(といっても,検証が十分とは思えないが。)建築材料でも同様と思われる。
・一方,太平洋セメントの細川氏は熱力学平衡計算に物質移動計算を連成し,すでに時間・空間的な問題についても検討を行っている。この点は,大きくヨーロッパに先んじている点であり,日本としては誇らしい点だと思う。
・今後,研究としては,速度論の問題を取り扱う必要があるだろう。前回のモントリオール大会では,山田博士らと共著で,エーライト・ビーライトの反応速度が高い相互依存性があることを実験的に示し,水和反応モデルに組み込んだ事例を示したが,今年のICCCでは,エーライトとビーライトとの反応速度相互依存性は,当たり前の状態になっていた。あのとき,ちゃんと動いてジャーナルにしておかなかったのが悔やまれる。今後,液相を含めたアルミネートの依存性なども評価されると考えられる。一方で,山田博士の招待論文発表でも示されたように,同じ化学組成でも粉砕温度によって流動性が大きく異なる,すなわち,アルミネートの反応速度などが異なっている,という事例にも見られるように,速度論には大きな壁がある。
ちなみに,私の研究室では,1990年代の水和データ,たとえば,断熱温度上昇曲線のデータなどを参考に,2005年前後のセメントの水和反応から追随できるかを検討した結果,反応速度はまったく異なっているということが明らかになっている。原料に多様な副産物を利用された結果,微量成分が反応速度にも大きく影響している状況証拠と我々は考えている。しかし,なぜJCIマスコン指針2008で問題が顕在化しなかったかは,謎が残るところである。技術資料データも相当に古いのだろうか。
・今回の発表では,ジオポリマーも非常に大きな領域になっているが,いずれも横並びで今後,どのように展開されるのかが楽しみな領域である。東工大のS先生にも教えてもらったが,摩擦,水流などに弱いということらしいので,用途はかなり限定されるのではないかと考えられる。
・全体的に言えることはヨーロッパの主要チーム以外のデータというのは,後追いが多いのと,実験に信頼性が伴っているか疑問符がつく点がある。国の事情で必要な研究なのかもしれないが,今後も増えるこういったデータを学問上,どのように扱っていくかということは重要だ。セメントのキャラクタライゼーションがさらに高度化され,すくなくともセメントの特性だけが厳密に抽出されているのであれば,それは後から,大きな財産になるような気がするが,物性や反応に必要な特性がなにか,というのも含めて途上であるので,実際のところ難しい。大がかりな予算を組んで実験する場合には,一袋くらい,将来のためにどこかで冷凍すると良いかもしれない。
・今後,日本にも標準セメントなど基準となるセメントが必要だ。JISも変わり続けていくなかで,研究のベースとすべきセメントを軸に物事を考えていかないと,後戻りができなくなる。将来にわたってコンクリート産業を支えるという意味で,セメント協会には,是非,その点を期待したい。
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