11/18/2007

思想と運用

最近,頭の中で良く出てくる議論。
まだ,頭が整理されていないので,だらだらと書く。

・性能設計において,過剰設計は悪である,は建築にもあてはまるのか。
顧客が100%,自分が購入しようとしているものに対する要求性能が書き下せるのであれば,余剰設計は悪かもしれない。自動車が過剰に強く,そのため,コストが加算されているのであればそれは顧客を裏切っている,という論理だ。
これは,現在の建築物,土木構造物にあてはまるだろうか。この間,構造の先生が,例の原子力発電所がこわれなかったのは,設計とおかしいと言った。構造の人間は皆,過剰設計は悪であると,アメリカなら訴訟がおきるという。

いつ,日本の国民は地震について完全に理解したのだろうか。
国民の総意として,原子力発電所のもつ性能がいつ決定しただろうか。
日本という国が被爆国でありながら,原子力発電所を持ち,テロの脅威もさらされつつあり,エネルギー問題で苦しんでいる中で,原発を壊れるかもしれないという状況で建設すべきなのか。
建物の持つ構造性能,施工性能さえ明かになっておらず,今後どのような地震力がくるかも分からない中で,謙虚に(ひょっとすると国側や電力側からのコスト削減要求にも抵抗して)安全率を見込んで(経済的にはコストをかけて)今回の事故を抑えた人こそ賞賛されるべきではないのか。それが,地震国で建物を建てようとする,エンジニアの良心ではないだろうか。
実験や経験をしないで計算機やっている人にこの傾向は多い気がする。(あくまでも,気がする,程度なんだけれども。)
現状の技術と将来有るべき姿の中間に常に我々はいて,その中で善なるものはなにかと工学的に扱っていくのが研究者,教育者,政治家なんだと私は思うのだが。


・指針は誰のためのものなのか。
最近の指針は性能設計の流れのなかから,モデルコード的な(コンクリートという材料物性をこうやってモデル化しても良いですよ,という数値計算用の諸条件)と設計のフィロソフィーについてが一緒になっている。
モデルコードをつくる,ということに関しては,もはや研究者の遊び場になっている。自分の実験・研究成果を入れ込みたい,ということだ。同じ現象に二つの式が入っていたりする。
過度期の今,様々な評価手法があることは良いが,設計の運用上は困る事態が生じるはず。
そういう事態は,誰のための指針なのかを忘れた結果だと私は思う。
設計指針自体のフィロソフィーについても近年,同様の動きがある。

コンクリートは構造的にはひび割れは不可避のものとしている点
引張強度が小さいので,ちょっとした乾燥収縮等のひび割れはやむを得ない場合が有る点
ひび割れが入ったとしても,それが小さければ十分に部材としては耐久性がある場合がある点

一方で,
ひび割れは,ひび割れ幅だけじゃなくて密度も耐久性に影響がある点
加水等コンクリートそのものの品質を落とすことが,ひび割れ幅を小さくしてしまう(ひび割れ密度は上がる)ことがある点
ひび割ればっかりに注意が行くことで,そもそも大事にしなくてはいけないものがおろそかに成ってしまう点
等々様々な要因がからんでいる。

場合によっては加水したり,鉄筋抜いたり,バイブもかけない悪意を有する施工者,無知な施工者がいる中で何を良しとして,何を悪として,どうやって世を良い方向に向かわせるか,ということを総合的に議論することが必用。
難しい指針ばっかりが先行して,形ばっかり整っても,世界が良くなるかどうかは別の事だから。

・姉歯の罪は軽すぎではないか。
彼が行った判断は,地震時に耐えられない建物を造ったとしても,自分の利益のためにはやむを得ない,ということではないか。
これは,未必の故意どころか故意である。
人数から言えば,強盗殺人以上の問題だと判断できるし,さらに,国家の建築物への信頼を貶めたことが,本当に5年ぽっちの刑で償うことなのか。
日本の法曹界はこれがいったいどういうことなのか,どうしてそのようなもっと説明をするべきだ。

しかも,本人は全く反省していなくて,上告している点から,次の場でもっと議論してほしい。

・一級建築士制度はどこにいくのか。
姉歯の問題は,大学教育が根拠となるようなものではない。

一級建築士の受験資格に現場の経歴をいれて大学教育を省くことは問題ではないか。その問題は文部科学省の問題であって,国交省の問題ではないと言い切る国交省には,姉歯事件の反省が何も生かされていないのではないか。また,現状無視という現在の確認申請の問題と全く同じことが起きているのも,まったく思慮されていない。

結局,日本の建築は将来のビジョン無く失敗をただす形で後手後手ですすんでいくことしかできないのだろうか。

次の一級建築士制度は,ゆとり教育と同じくらいの建築業界の後退を促すかもしれない。

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