7/12/2014

JCIが終わりました。

今年は、学内関係のさまざまな委員会の役職を拝命している関係で、JCIは残念ながら参加できませんでした。CD-ROMで、タイトルを概観し、興味あるものは流し読みをしました。編集委員でもあったので、おおよそのものは理解できているのではと思います。議論に参加できなかったのは残念でした。

今回のJCI年次大会では、以下のような論文を発表しました。それぞれの要点についても記載しましたので、もし、ご興味があればご確認いただけたらと思います。

[1079]コンクリート中の粗骨材が拘束試験体のひび割れに及ぼす影響についての解析的検討、
篠野宏, 丸山一平, 中村光



この論文は、昨年度、北口くんがDICMを用いた発表をJCIとAIJ東海支部で行ったものをベースにしています。すなわち、拘束条件でなぜ、収縮の異なる骨材によってひび割れ挙動が違うのかという点を解析で表現したものです。完全拘束条件では、引張応力はモルタルに生じ、調合条件が同じなら、骨材依存性はないはずじゃないか、というのがスタート地点です。解析的検討では、ワシントンDCで行われた、セルフデシケーションのワークショップで、Jason Weiss先生のチームがこのことを解析で実施しています。しかし、石灰石を入れると微細な表面ひび割れが入ってボロボロになるし、収縮の大きい砂岩を用いると、貫通ひび割れが入りやすくなります。これが、なぜなのか、というのを表現した、っていう論文で、収縮制御と材料の関係を極めて正攻法で解き明かすこころみの途中段階のものです。セメギでも一部、篠野君が発表しました。
より、詳細な解析検討の結果を実験結果とも併せて、CCRに投稿予定です。

[1081]細骨材粒径がモルタルの乾燥収縮ひずみに与える影響に関する検討
酒井田智哉, 篠野宏, 丸山一平

解析を実施しようとすると、ペーストと細骨材の相互作用を考えて、平均化したモデルを構築する必要があります。ところが、モルタルとペーストを結びつけるデータは、古いACIの論文程度で、緻密なデータはりません。2年前に骨材依存性の問題として、セメント・コンクリートに寺本先生(現・広大助教)と一緒に論文を出していますが、収縮問題としてデータをとりたかったので実施したものです。せっかくなので、論文にするように微細ひび割れとの検討で論文化したもので、それなりに面白いデータがそろっています。多分、もっと細かい分析をすればジャーナルにも投稿できるデータになったと思うのですが、ディスカッション不足でここでとどまっています。
このあたりは日本では川上先生がきれいなデータを蓄積しており、大変に参考にさせていただきました。エポキシ樹脂含浸は、ひび割れに入るリミットがあるので、樹脂の入るひび割れと入らないひび割れがあることを前提にデータをみないと、ミスリーディングな結果になります。また、人間の目は、3次元データを2次元でみたときに大分誤解しやすいため、その点でも今回のデータは非常に面白いものです。

[1097]拡張BET理論に基づくセメントペーストの水蒸気吸着等温モデルの提案
五十嵐豪, 丸山一平

拡張BET理論を導出し、吸着等温線のキンクとC-S-Hの構造変化について議論しようとするものです。多くの研究者が、C-S-Hの乾燥時の変質を無視し、Brunauerの空隙構造モデルをベースに議論しており、セメントの収縮研究をはじめ、多くの研究が誤解している状況で、日本でこれを打破しようという意図でJCIに投稿したものです。セメギでも関連論文を発表しています。
まだ、詰め切れていない議論があり、海外の研究者とも継続して議論をしている内容で、もし、ご意見があれば、是非頂戴したいです。
なお、C-S-Hの層間が変化し、収縮量を支配しているというのは別データでも検証済みで、先月、CCRに投稿したところです。データを小出しにしている、というよりは、ひとつの流れで議論するにはデータのバラエティが多すぎてとりまとまっていない、という状況です。このあたり、セメギで発表したSAXSデータとも関連が高く、SAXSで推定した層間厚さとの関係も議論できるよう、データを拡充しつつあります。(SAXSについては、旭化成さんと共同で研究をさせていただきますが、世界中のSAXS、SANSデータの位置付けを明確にし、日本のデータの有意性・優位性が明らかになったので、早々に論文化したいと考えています。)
どこかの場で、一連をきちんと流れをおって、専門家の前でプレゼンしたい、と考えております。

[1104]湿度・温度による乾燥を受けたコンクリートの力学的特性および応力-ひずみ曲線式に関する検討

近年、乾燥影響をセメントペーストだけでなく、モルタル、コンクリートでも体系的にとってデータを(断片的ですが)出してきました。これらは、最終的に健全性評価の上で、構造解析につなげる必要があり、乾燥によってダメージをうけたコンクリートのSSカーブの評価はほとんど実施されていないので、そのあたりのデータ取りをしてモデル化した、というものです。
全体像があきらかだと、この研究の重要性は結構ご理解いただけると思いますが、全体像が大きすぎるのでパーツとしてのプレゼンになっていると思います。
建物のAging Managementの重要性は、今後必要になるはずのもので、JCIでも委員会等で議論されていますが、すでに原子力の方では手法論・方針論は明確になっており、これを実務に落とすところが研究テーマとなっています。そういう文脈の論文であると理解いただければ幸いです。
これらのデータも、他骨材を用いたケースを含めて、体系化し、ジャーナル投稿を考えています。


[1034]高炉セメントの若材齢の水和反応に練上り温度と初期高温履歴が及ぼす影響
全培糊, 丸山一平

ちょっと粗い論文でした。完成度としては一番低かったと思います。ただ、スラグの反応率とエーライトの反応率の相関が温度履歴にかかわらず、同じプロットにのるというのは面白い現象だと思います。おそらく、C-S-Hにスラグの反応した後の水和物が析出するため、あるいはC-S-Hの一部をつかってスラグのシリカなどが反応するためにこういった状況が生じるのであろうと。通常の水セメント比の範囲では、水和反応は多くが析出律速なので、その観点で重要な示唆を与えたデータであると考えています。膨張材を入れた系などでの評価も行っているので、近いうちに論文化できるのではと思っています。

[1057]温度・湿度変化による乾燥を受けたコンクリートの割裂引張強度に関する検討
伊藤充希, 篠野宏, 丸山一平

別府くんが圧縮強度なら、伊藤くんは割裂引張強度です。割裂引張強度に及ぼす乾燥による微細ひび割れの影響と、マトリックスの影響を分離・評価した研究です。マトリックスが支配する領域と骨材周囲の損傷が卓越する領域が自分の想定していたところと違っていたので、結構驚いています。なぜなんでしょうか。骨材寸法依存性データなども明らかになってきているので、このあたりをまとめて今年度にはジャーナルに投稿したいところです。

C-S-Hの変質を微細な観点から明らかにしたものに、最近の

I. Maruyama, Y. Nishioka, G. Igarashi, K. Matsui, Microstructural and bulk property changes in hardened cement paste during the first drying process, Cement and Concrete Research, Volume 58d, pp. 20–34, 2014

に示しています。このデータと近年の画像相関法データ、

I. Maruyama, H. Sasano: Strain and crack distribution in concrete during drying, Materials and Structures, V. 47, 3-4, pp.517-532, 2014,

を読んでいただくと、損傷の考え方、マトリックスの考え方がご理解いただけると思います。
圧縮強度の方は、一部、今年のAIJ大会(原子力セッション)で聴いていただければ幸いです。また、CCRに投稿中で、うまくいったら、より明確な考えをお伝えできると思います。
最近、ポアソン比データも見なおしていますが、これまた大変面白いデータになっております。1,2年で概念が体系化できたら、と思っています。




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