10/19/2022

マスコンクリートのひび割れ幅の予測

 マスコンクリートのひび割れ予測は古くて新しい問題です。日本では日本コンクリート工学会を中心として、ひび割れ制御指針が示されており、古くからさまざまな数値解析予測を用いた手法を中心として、検討がすすんできました。

マスコンクリートの問題は、セメントが水和して発熱するのですが、大型の部材の場合には表面からの放熱が限定的なので内部で温度が上昇し、下がるという現象が生じるときに、同時にヤング率が低い状態から高い状態に変化します。自由変形では、温度の増加とともに膨張し、その後温度の低下とともに収縮し、線膨張係数が一定なら、ひずみはゼロに戻ります。

この間、対象部材が拘束されていると膨張時(温度上昇時)に圧縮応力が、収縮時(温度低下時)に引張応力が働くのですが、その時の材料のヤング率が圧縮応力が働くときに小さくて、引張応力が生じるときに大きくなっているので、差し引きで引張応力が残ります。この応力が引張強度を超えるとひび割れます。

この挙動は、温度の履歴、ヤング率の履歴、強度の履歴が正確に表現できないといけません。もっというと、線膨張係数、クリープも、適切に表現されないといけなし、部材の中では中心部で温度が高くて、反応が進んでいち早くヤング率が発展する一方、外の方が温度がそれほどあがらないので、ヤング率も強度も発展しないというような、水和ー熱ー水の連成を適切にもとめないといけない、という複雑な問題なわけです。

我々の研究チームでは、剛体バネモデルにこれらの内容を組み込んで予測することで、ひび割れを予測することができるようになりました。

[1] P. Srimook, I. Maruyama, K. Shibuya, S. Tomita, Evaluation of thermal crack width and crack spacing in massive reinforced concrete structures subject to external restraints using RBSM, Eng. Fract. Mech. 274 (2022) 108800. https://doi.org/10.1016/j.engfracmech.2022.108800.



建築の分野では、ひび割れの検討では、山崎氏が詳細に検討されたりして、対象部材のひび割れが理論通りに分布しないことなどを指摘していました。この問題、試験体のディテールにも依存するのですが、長い試験体の場合、実は対象部材と拘束部材の間に水平ひび割れが入るので、これが解析に大きな影響を及ぼしています。下の図の部材右端のひび割れです。


断面内の温度分布があるので部材全体が曲げ変形することは古くから指摘されているのですが、部材の貫通ひび割れの評価に、この水平ひび割れが大きく影響することは、おそらくは昔の構造をやっていた人なら理解できると思うのですが、数値計算上はややこしくて考慮d系なかったんだと思うのですよね。
JCIのマスコン指針では、FEMを用いて解析をするときに表面ひび割れは無視するというのがあるのですが、そもそも、その表面のひび割れにより緩和する挙動がモデル化できていない時点で部材に生ずるひび割れ発生駆動力の評価があまり適切に評価できていないことになります。

それと解析していて、こちらも明らかになりましたが、自己収縮を考慮しないとこうった適切なひび割れはやはり評価できません。その観点で、AIJ指針の最新版で自己収縮を明示的に考慮するよう、JCI指針を追随したのは適切な判断だったかと思います。

FEMについては、過去の発表したものもあるのですが、今後はひび割れを考慮して全体を考慮しなくちゃいけない、ということになろうかと思います。ラフなひび割れ幅の予測については、今後も粛々と検討やっていこうかと思います。

なによりも、今回の剛体バネモデルの構築で、実験に頼らずとも、それなりに精度でひび割れが表現できるようになったので、統計処理する基本をこの剛体バネモデルで行い、データを作成してひび割れ幅予測式を提案するということも可能になったのは大きな前進だと考えます。



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