10月7日から10月12日まで,海外出張に行ってきました。(というか,まだ,出張中です。)
米国出張との間は1日半しかありませんでした。まるで,ビジネスマンみたいです。
今回の出張は,FinlandのEspooで電力会社であるFortrumが会場です。
内容は,前回のBarcelonaに引き続き,International Committee on Irradiated concreteを立ち上げることが主要な目的です。本委員会は,米国のオークリッジ国立研究所(ORNL)の提案により,そもそもは日米国際知見交換会と,ORNLが個別に各国と行っていた知見交換を合流し,放射線によるコンクリートの変質を中心とした国際的な知見交換会を設立しようというものです。
目的は,科学的には,劣化メカニズムに関わる基礎の確立を目的としていますが,そもそも放射線照射試験や照射後実験が非常に高額で難しいものなので,知見を交換して,極力実験の失敗を回避したり,重複による損失を回避することなどもスコープに入っています。また,どこでどのような研究炉があって,どのようなプロジェクトが実施中であるかの確認をもとに,得られる成果の相乗効果を探ることや,国際共同研究を提案すること,IAEAやOECDに対して提案を行うこと,規制に関する提案を行うこと(これについては懐疑的な意見も多かったですが)などもスコープに入っています。
また,研究対象は,当初,建屋だけが目的でしたが,メッカであるフィンランドからの提案で処分施設に関するセメントバリアについてもスコープに入り,かなり大きな研究領域が対象となっています。Structural performanceという観点からは,建屋の地震応答なども領域として含まれているので,原子力に関するコンクリート研究に関してかなり広範な議論ができるようになりました。
今回のミーティングでは,Chater(委員会憲章)の合意がひとつの議題であり,半分くらいの時間を費やして,Draftの修正を行い,合意に至りました。
正直,このように,真に民主的にものごとを進める手法というのを横でみて,(日本はこういうプロセスから言えば,多くの点が民主的なからを来たトップダウン方のススメ方が圧倒的に多いように思います。),大変勉強になりました。国際的合意の進め方を知らなかった私としては,本当に良い経験でした。
Charterが合意にいたり,委員会は正式に成立しました。初代の議長は,ORNLのRosseel博士,副議長は,私,SecretaryはFinlandのFerriera博士です。
年齢的には,最年少に近い私が副議長になれたのは,米国側が日本の研究成果や,この領域に対する貢献が,欧米と比肩するものであるから,その点で敬意を払ってくれているからだとおもいます。奇しくも,日本が科学・工学領域では,引き続き大国として存在しているのだということを,現場で体験しました。日本国内でいると,そのような状況というのはなかなか実感として得られませんが,先人の恩恵というのはこういうところで生まれているのだ,と個人的に再確認しました。
また,これは,日本の規制庁プロジェクトについて,関村先生が主査となり,研究のための研究ではなく,規制のための研究をやれと10年間,ひたすらに全体をリーディングしてきた結果であるとも思います。少なくともこの日本の照射プロジェクトの参加者は,真にゴールを目指して最善を尽くしてきたと胸を張って言えると思います。こうした姿勢を構築する指導者というのは,どの分野にもいるかというと,そうではないのが現状ですから,その点もまた,再確認した点です。
さて,会議についての雑感です。
ASR関係では,損傷をHomogenization theoryで評価して数値モデル化していくのが欧米では一般的ですが,ORNLは,その手法を同じように照射関係にも適用しつつあります。しかし,強度や剛性評価には損傷を評価するだけでなく,マトリクスの物性まで考えていかないと,予測精度は高くなりません。日本の一般的な研究でも,近藤連一先生の「多孔材料」教科書出版以降,ペーストをただの多孔体として評価する価値観が流布されましたが,コロイド的特性を無視した時点で,実験データの評価をつねにあやまります。とくに温湿度の影響の評価はこの点を無視したら絶対に出来ません。
そういう意味では,岸谷・嵩先生の一連の論文は,時代の最先端でした。また,もっとも素晴らしいのは,CCRの第一号に掲載されたフィンランドの原子力発電所に関わる一連の研究です。
米国は精力的に文献調査をやってきましたが,やはり慣習からぬけられずにいました。もっとも関係の深い論文を書いてきたMITやカナダのNRCもなぜか本丸の物性研究はそれほどやってきておらず,C-S-Hの変質研究にとどまっていました。日本では戦略的に,この間隙を適切について,キーポイントとなる実験データをどのように蓄積するかに腐心して,実験計画を練って実施してきました。その一部が最近パブリッシュされた,CCRやACTの論文に結実しています。これらの結果により,最終的な予測精度は工学式・実験式であっても非常に高くなります。
実際の構造物からコア抜きしたデータを蓄積しても,マトリクスの強度評価手法がないと照射の影響評価ができないということに,今回の私の発表で,ORNLもやっと気づきました。Le Pape博士はCCR論文の意義がやっとわかったと言ってくれました。骨材が収縮することの重要性をあらためて認識した,とも。やはり欧米で骨材が収縮する認識は希薄です。(だからACI論文もリジェクトだったんでしょうけど・・)欧米の骨材が違うというのも一因とは思います。だって,風成層の砂岩と日本の砂岩を比較すること自体,間違いだと思いますし・・・。
でも,米国の研究者は,大変にスマートですから次の時にその先についてなんか検討してくるんだろうとは思います。
多分,今議論している成果は,IAEA-CRPとして今後世界的に開始される廃炉を用いた研究に反映されていくと思われますので,そういう観点からいえば,我々のライバル関係は,膨大なお金をかけるそれらのデータ取得について,なんらかの良い貢献ができるんじゃないかと思います。
一方,日本はもっと研究体制を手厚くしたいです。特に結晶学,放射線物理学専門の若手で興味ある人を。北大の市川先生,東北大の阿部先生,東大の勝村先生にやったほうが良いと5年前にいわれていたことをORNLは開始しました。わかっていたのに,というのがまた悔しいです。
予算もどっかからとってこないといけませんが,しばらくまた,足を運んで関係を構築していきたいです。
あとは細かい点ですが,気なったこと。
米国では,理論家がやや多すぎるように思います。実験を多くやって,コンクリートの直感に優れた人という人が関係者にいないように思います。文献調査も良くしているんですが,手でいじってないからなんでしょうけど,少し,現実感の無いモデルが出てきます。第一近似といえば,耳障りは良いのですが,そこまで考えたら同列にこれとこれも考えないと影響量はちゃんと取り出せないんじゃないか,とものがよく有ります。議論したいところですが,根幹に関わる点なので,メールで少し質問をしてみたりしています。
実のところ,論文を見回してみても,細かい化学分析論文は出てきますが,それとコンクリート工学がどうなっているのか,という議論を行っている若手というのはあまりいません。Weiss博士のチームはそれに近いと思いますが,MITチームはちょっと遠い気がします。
スペインチームは,すごい多数の人が参加しているのですが,コンクリートの専門家が少ないです。Andrade先生が参加しているのですが,原子力のスケールと彼女のスケールはあまりかみあっていないように思います。ORNLがいくつか,研究提案をしたのですが柔軟性が乏しいようにも感じました。かなり高額な実験を計画しているので,もう少し,議論を行ってよりよりデータが出るようにした方がよいかな,と思いました。たぶん,実験計画を多数で合意してしまったので修正が難しいのじゃないかと思いますが,研究である以上,至上命題は正しい成果であるはずなのでこの点は日本の今後の研究でも留意しないといけない点じゃないかと思いました。
今回の出張も学ぶものが多かったです。
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