8/24/2010

50年後



元図引用 国立社会保障・人口問題研究所 金子隆一氏

先日,50年後の話をしましたが,今後を考える気になるいくつかの点と建築・建設業について。


上の図は,2055年,45年後くらいの日本の人口分布予測図です。超高齢化社会であることが見て取れますが,その中心付近にいるのが私,ということになります。生きていれば,という前提ですが。
80才ですね。

今後考えられるビッグプロジェクトとは,何でしょうか。今,ここでいっているのは,若い世代が考えて設計して,実施するという,技術を残すため,あるいは技術を前進させるためのそういう事案です。

今後,日本で大きなプロジェクトというと,建築では現在のスカイツリーくらいでしょうか。あとは原発が数個は作られるでしょう。これのメンテナンス,解体というのはある意味ビックプロジェクトではありますが,まったく新しいということでもないでしょう。
今後,都市を新しく開拓することはないでしょうが,縮約するためのリアレンジはするかもしれません。でも,政策的なのか,民間のディベロッパー主体なのか,地方でやるかもわかりませんが,多くみつもっても現在の建設規模程度のものでしょう。設計,施工,それらに新しい技術はないかもしれない。
個別事案で奇っ怪な形態をつくるという点で,建築には小さいながらの新陳代謝はあるでしょう。それは人間の本能にもとづくものですから。でも,こういう新築物件があるということは,70,80年代にくらべて,せいぜい25%程度の人間に対して,新しい成長の場を供給することができるものと思われます。

土木でいうと,リニア新幹線は大きそうです。チャレンジも多いし。技術的課題が大きい。残りの高速道路,新幹線はおおよそ設計ができているので,これはビッグプロジェクトとはいえないかも。港湾は新しい場はあるでしょうか。地下構造物は,今後も少し新しいことが行われそうです。CO2埋蔵,廃棄物の貯蔵,資源のストック,地下構造物は土木の今後のフロンティアの一面かもしれない。風力発電なんかも,フロンティアですね。

スマートグリッドは,土木・建築にインパクトを与えるでしょうか。建築の構造には与えないでしょうが,都市設計にはインパクトがあるでしょう。小学校を中心とした街区設計ではなくて,エネルギー主体になるでしょう。今後はお年寄りのコミュニティが中心となるような街の設計になるでしょう。少しづつの変化はあります。

こういった場の提供で,上の図のビッグプロジェクトの無い世代というのが育ちます。50年は大きいと思いますよ。こう考えると,その後の世代において,新しいことはできないでしょう。技術の継承もままならないし。そう考えると,日本の50年以降のビッグプロジェクトがもしあったとしても,あるいはビッグでないとしても,日本の技術者がその任を担えるでしょうか。
これは難しい問題だと思います。
容易に思いつくのは,中国のゼネコンが日本の公共事業を受注するという姿です。中国の国土から考えれば,土木技術者は向こう100年くらいは,技術の継承がなされるでしょう。すべて新築という形で。これは大きなことです。

もし,地方の公共事業が無くなったら,将来の新築の備え,災害時の復旧などについて対応ができなくなるものと思います。こういう土木事業が潜在的にあるというのは,一種の安全対策,福祉政策の一つにもなるべきものです。(この意見は昨日,ディスカッションさせていただいた企業の方に教えてもらったものです。)

技術継承というのは,先のトピックで鉱床学の話をしましたが,建築・土木でもそろそろ政策として,どの程度の人員をどの程度の規模で,どこに,どのように温存していくかという議論が必要です。

これは,国交省,土木研究所,建築研究所,大学の教員,地方と併せて議論が必要だと思います。若手でこういうディスカッションをしたいと思いますが,いかがでしょうか。


ちなみにですね,近々の大学を対象として考えると2022年には,13.4万人の定員割れが予測されていて,300名規模の学部が400ほどなくなる勘定になっています。
(参考資料リンク
最近,建築,土木の人気は落ちつつありますが,そういう中でどういったやりくり,ビジョンを描くというのは我々教員としても重要ではないかと思う次第。


今後,大学はメンテナンス学やランニング・解体時の話が主役になるでしょう。新築の学問も大事なんですが,市場は,建物の延命,リユースの方向に向かうモノと思われます。ただ,大事なことはその時代の設計や思想を理解した上で改良することなので,新築ができなければ,構造的延命もできないんじゃないか,というのが私の持論です。その新築の場をどういう形で提供して,人の血肉にしていくか,向こう50年の教育体系は,今考えるべきではないかと思います。

私の腹案は,比較的大きな建物の解体時には,政策として複数の技術者に対して研修という形で,鉄筋と断面を拾わせて,構造計算させ,振動実験やプッシュプルで壊すような実験をして,破壊プロセスを見ながら設計がどこに効いているか,ということを理解させるというものです。
どうせ壊すのであれば,そのコストを大きくさせる目的が一つ,そのコストを有益に利用するために,そういった施策を強制介入させて,技術者の知見にするというのはあっても良いかなあと。

コストを増大させると,経済的回転はさらに停滞してしまうかもしれないので,ある意味では諸刃の剣かもしれないです。いまの電化製品のように。でも,それで建物が延命の方向に行くのであれば,それもまたよしではないかと。


施工技術の方が実は難しいです。こればっかりは新築しないといけないので。この点については,もう少し考えて見ます。本当は,施工が一番チャレンジングで難しいんですよね。

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