6/07/2014

JCIマスコン指針の改訂についての雑感

昨日,JCIマスコン指針の改訂に向けた調査結果についての報告会に委員として出席しました。私は解析WGの委員ですが,正直あまり貢献していないです。昨日の委員会に出席して感じたことを以下に示します。

・トゥールモンド博士が紹介したフランスのDEFの事例紹介とその取組は,大変素晴らしいものでした。組織として,フランスとして取り組んでいるというチームワークと,できるとこからとりくんでいくという工学的な取り組みは大変学ぶことが多いと思いました。

・JCIの指針として英文化していくということですが,そこまでちゃんとやろうとするのであれば,JCI内部での査読はもとより,パブリックコメントを募集する期間をつくるべきと思いました。また,そのことを考えると,土木よりに偏っている現状については,建築分野の問題にも目を振り向けてバランスの良いものにしていく必要があると思います。その観点からは,建築の委員が少ないように思いました。





・技術の現状と設計はあきらかに別物です。ひび割れ指数とひび割れ発生確率を結びつけた現状において,設計をひび割れ発生確率で実施するといった以上,それを守ったほうが良いと思います。性能設計としての出口をどこにもとめるのか,ということと,ひび割れ発生確率との関係が不明瞭なのが,現状の問題点です。
すなわち,現在の一般的な設計用値を用いて指数をだし,確率でもって議論するという流れの中で,性能設計する場合の意味合いとはなにか,ということが不明瞭だということです。現状,発注者側の知識は乏しく,確率で議論することも少ないというようなことを伺いますが,学会としてその位置付けを明解にすべき,解説に記載すべきと思います。
良い材料をつくった場合,データをとって性能設計の形でマスコン解析を実施して,指数を出すということの意味は,現状では相対比較において意味があります。すなわち,この材料を用いると指数は,これだけ大きくなります,ということです。この上がった指数の増分が発生確率のどの程度の低減に寄与しているか,ということをどう解釈するかについて,設計の流れの中での位置付けを示せば良いと思います。現場の混乱と位置付けの不明瞭さを解消するには,すくなくとも原理原則ベースで(将来データが増えていくことを期待して)記載するのが一番だと思います。

・簡易評価式の用い方もまた,微妙です。三次元解析と同列に考えること自体が問題ではないかと思います。委員長は,そちらを望んでいるようですが。
簡易評価式は,性能設計段階における材料選定や断面設計,施工方法,各プロセスでの効用を簡易にかつ,合理的に取得するためのツールと位置づけるべきです。指数の変化量に対しての効用をどのように示すか,という上の問題と同じで,簡易評価式の感度についてどのように評価すべきか,という考えを示すことが大事だと思います。

・そのことから考えて,簡易評価式が使われる場面を考慮して,フィッティングのもととなる3次元解析の解析条件についても,整理する必要があります。材料選定において,日変動データは必要ありません。状態のばらつきを知りたいなら,そういう解析が必要でしょう。施工の影響を考える場合も日変動は必要と思います。ケースバイケースで解析ケースを分解していかないと,とても役に立つ式にはらないのではないかと思います。そういう意味では,AIJのマスコン指針のチャートの考え方を是非組み入れていただきたいと思います。

・設計のあり方を議論するのと,設計用値を事細かに示すのは別物です。私は,JCI2008指針で示しているマスコンの3次元解析手法については,原則が網羅された良い状態であると考えています。この状態で気になっているのは,クリープのデータ蓄積とステップバイステップの採用(メモリ的に厳しいので田辺先生らの手法の方がよいかもしれませんが。),硬化原点のパラメータの不統一(断熱温度上昇,強度,自己収縮で違う原点が示されている。)です。これは,初期温度に対する感度が適切ではないからで,特に夏場の解析が過小評価されている可能性があります。(冬場の一部のセメントも解析結果はよくありません。)

そもそも,解析では,コンクリートの全ひずみを予測して,ひずみの適合条件と力の釣り合いを解いているので,線膨張係数がどうのこうの,と議論することにはほとんど意味がありません。線膨張係数一定で,自己収縮が計算上,プラスにでるというのは別に大きな問題ではありません。また,線膨張係数の問題を議論するのであれば,初期の柔らかいときに大きい値をとるという状態よりも,最小点から上昇していくことの方が問題で,これが見かけ上の収縮量の増大を生じさせ,とくに高炉セメントなどで,ひび割れリスクを上昇させています。
初期の線膨張を議論するなら,それより先にその時点でのクリープの大きさや,物性値の原点を議論するとともに,生コン出荷から打ち込みまでの時間における解析の考え方を明解にすることの方がよっぽど大事です。現状,気温+5℃にこれらの影響がコミコミに押し込まれているというのが私の考えですが,それについても,もう少し位置付けは明解にすべきと思います。

加えて,線膨張係数の整理では,最新知見が反映されておらず,特に最小点以降の問題をあえて無視するというデータ整理を行っており,最新知見を反映するという前提にも反したものととなっており,個人的にはまったく理解ができません。

私は,新しい指針に時間依存する線膨張係数を入れることはまったく意味がないという意見ですが,それでも,おそらく,世界でもっとも線膨張係数の時間依存性データを有しており,これらのデータをお送りしても,プレゼンに示されなかったのは理解しがたいです。大変悔しいので貼っておきます。

図1 普通ポルトランドセメント NXX-YY-ZZ XX:水セメント比,YY:練上り温度,ZZ:最大温度

図2 高炉セメントB種相当 BBXXAA-YY-ZZ XX:置換率,AA:水セメント比,YY:練上り温度,ZZ:最大温度

図3 中庸熱セメント XX:水セメント比,YY:練上り温度,ZZ:最大温度

図4 低熱セメント XX:水セメント比,YY:練上り温度,ZZ:最大温度

図5 宇部三菱SFC W/B=0.15 初期温度ー最大温度

図6 太平洋セメントSFPC 初期温度ー最大温度

図7 太平洋セメントSFPC 初期温度ー最大温度

図8 太平洋セメントSFPC 初期温度ー最大温度


水セメント比が大きい時には,線膨張が小さいままである傾向,水セメント比が小さくなると水和による自己乾燥により線膨張係数が材齢20時間近傍の極小値から大きくなる傾向などはあきらかではないかと思います。なお,Mayer(1950)らが示したように湿度と線膨張係数は上に凸の関係をもっており,自己乾燥がさらにひどくなると,線膨張係数はまた小さくなる傾向になります。




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