10/22/2016

近況 20161022

職位がかわったからといって、突然何かが変わるものでもありませんし、仕事がかわるものでもありません。とはいいつつも、周りの状況は刻一刻とかわっており、研究状況も含めて猛烈な変化があってちょっと動揺しています。

研究上での進捗を中心として、近況は以下のような感じです。

1.Small Angle X-ray Scatteringを用いて、セメント硬化体中の乾燥時のC-S-Hの凝集構造の変化について議論しました。同様な論文は、Chiangらのものがあるのですが、かれらは、WAXS領域を測定していませんし、どういうわけか彼らが指摘するピークはどうやっても出てきません。そのため、別の観点からの議論を行って、Discフラクタルモデルを用いることで、C-S-Hの凝集構造の変化とその中に存在する層状構造が乾燥時に動的に変化するデータを示すことに成功しました。

Microstructural changes in white Portland cement paste under the first drying process evaluated by WAXS, SAXS, and USAXS
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008884616301144

共同研究を実施していただいた、共著者の旭化成の松井さん、坂本さんには足掛け6年の長きに渡り、測定、議論をさせていただき感謝申し上げます。本当に長かった。

2.英国で実施した、1H-NMRのCPMGシーケンスについてやっと名大で測定が可能になりました。これでさまざまなデータについて議論ができます。英国で議論した際、ハイデルベルグが出しているホワイトセメントのFeの量が議論になりました。日本の太平洋セメント社(今は、海外産に変化してしまった。)のホワイトセメントは、Feの含有量が小さく、NMR測定にベストな製品と考えられます。研究用途に使うのは想定外かもしれませんが、非常に貴重な研究リソースを失ったのは大変残念です。

3.M2の張くんの研究で、やっとマスコンのひび割れ予測が有限要素法でできるようになりました。破壊エネルギーの時間依存性と塑性変形の考え方、また、温度履歴に依存する物性を適切に評価すると、予測できるという結果になりました。現実をどれだけモデリングするか、というのは常に課題になるのですが、面倒くさがり屋の私共としては、これはどうも考えなくてはいけない、というギリギリのところの現象がいくつかあきらかになったので、論文化できると考えています。Concrack5で概要を発表します。

4.時間と体調マネジメントは常に重要な課題です。もう、無理な会合は無理と言って休まないとこわいことになってしまいます。関係者のみなまさ、ご迷惑をおかけしますが、どうか、ご了承のほどお願い申し上げます。

5.私は音が苦手でした。とくに読書や研究の作業をしているときの音楽は邪魔でしかありません。ただ、最近、電車を含めた公共機関の輸送での騒音がかなり自分の心理面のストレスになっていることを発見しました。(その傾向は飛行機の耳栓で感じてはいたのですが・・・。)その為、移動時に音楽を聞くようになりました。40年生きてきて新しい展開で自分でも驚いています。

6.移動時に論文を読むことが多かったのですが、これですと自分の知識が絞られるばっかりで、なんだか人間ちっちゃくなってしまいそうなので、小説や新書を読むように変えました。論文は大学の作業の合間に読むようになりました。最近読んだのは、村上春樹の「女のいない男たち」でした。久しぶりの短編集です。ねじまき鳥クロニクルあたりから、男女間の絶望的な境遇について記載される傾向が増えてきていましたが、これはその濃縮版です。基本的にスタンスが諦観からスタートしているので、テンションによっては読めないものもあったのですが、最近読了しました。
人間関係には不可逆なものが多く、ターニングポイントは日常に沢山転がっています。自分のどうしようもない怒りとか、欲望とか、野心とか、そういったものを客観視しなくてはいけないと思ってもできない状況を村上春樹の言葉で置き換えて説明してもらったようです。ただ、もちろん解決にはならない。40もすぎると、いろんな哀しいことも起きるようになりますが、そういうのはどうやって体に馴染むのを待てるようになるんでしょうかね。

10/15/2016

ご報告

遅くなりましたが、この度、同じ所属する大学で教授となりました。引続き、トゲトゲした研究ができるよう、頑張ってまいります。

今後の豊富としては大学も生き残りをかけた撤退戦の序盤戦がそろそろおわりそうな感じですが、今後の中盤戦に向けた議論と方針作成、全体の戦略について思うところがありますので、みなさまと議論していきながら、未来に向けて耀環境をもつ大学に少しづつ努力したいと考えております。

研究面においては、建築材料学、セメント科学といった閉じた社会ではなく、他の分野とのコラボレーションができるような基礎環境の醸成とコラボレーションによる実績を積み重ねたいと考えております。近々の研究分野としては、岩石の放射線によるメタミクト化、コンクリーションメカニズムの解明と応用、無機材料におけるマルチスケールシミュレーション、触媒、などがテーマになっておりますから、その点で一つ一つを大事に成果を出し続けていきたいと思います。また、国際的な研究ネットワークもでき始めていますので、そういった中でのより先端的な研究とそれを通じた学生教育に邁進したいと考えています。

社会連携・貢献においては、私の研究者としての立ち位置も概ね見えてきたところでもあり、また、今後は人が少なくなることから、他の人とかぶるようなことはあまりしないでおこうかと考えています。それぞれが、自分の良さ、強み、そして適合性を勘案して楽しく邁進できる方向性を模索したいところです。前時代的に、皆が順番になにか上の人間に指名されて労働が課されるというような形のルールについては、今後は学内も含めて問題点をあきらかにし、重要性とのバランスで実施の意義、重要性、必要性の観点から見直しを勧め、みなが適切に前に進められる条件を見定めながら、前向きな活動をしていきたいと思います。

今後とも、どうぞ、よろしくお願いいたします。


10/06/2016

英国出張

おそくなってしまいましたが、9月11日から23日まで英国出張に行ってまいりました。9日からいくはずだったのが、8日にアクシデントがあり、急なフライトの変更を余儀なくされました。みなさん、体調管理には気をつけましょう。

英国は、最初の1週間にSurreyとLondonに滞在しまして、1H-NMRの分析技術を学びにSurrey大学のMcDonald先生のところに滞在しました。今回の滞在は、Daiwa-Foundationの支援を受けました。
非常に懇切丁寧に実験方法とメカニズムについてレクチャーを受けました。
13日はミニシンポを行い、Gartner博士、Vandamme先生、Muller博士、Hong博士、らと意見交換を行いました。Muller博士と仲良くなれたのは非常にラッキーでした。
翌日は、LondonのImperial Collegeでクリープ現象に関するWSを行い、マイクロインデンテーション技術の応用を始め、多くの実験データについて議論を行いました。午後は市内観光。
翌日は、Surrey大学で、EPFLのScrivener先生にお会いして、最近、Gartner博士と共著で論文を投稿した新しいC-S-Hモデル、および、SAXSを始めとした乾燥時のセメントの変質に関するデータの説明を行い、議論を行いました。EPFLでの現在進行中のプロジェクト、投稿予定の論文についてご教示いただくとともに、ほぼ同様なモデルが議論されていることを知って驚きました。
加えて、最新のEUの研究知見と過去の論文の批評などを伺い、日本とはまったく違うレベルで議論が進行していることを、あらためて認識しました。年に1回は、EUを回って研究知見を自分の足で稼がなくては、そして、自分のネットワークをつくって常に研究データや論文が回ってくるようにならなくては、日本の中だけで研究していてもまったくだめなことがあらためて理解できました。

Surrey大学の次は、Aberdeen大学に移動し、Glasser先生やMacphee先生と意見交換を行いました。新しいセメントのプロジェクトで、現在、カタールにパイロットプラントを建設中のもののご研究や、ガラスの溶解速度、触媒反応に関する研究などについて意見交換をさせていただきました。また、地質学者の方とも議論が行えましたし、多くのネットワークづくりができました。

その後、Leeds大学に移動し、Richardson先生とC-S-Hモデルについての議論を行いました。結晶学的な欠陥と実際のC-S-Hを結晶として考えてよいかについては、かなり異なる見解ではありましたが、多くのことを優しく説明いただきました。

Richardson先生とMcDonald先生は2017年度に来日していただけるということなので、今後、日本においてもなんらかのイベントができたら、と考えている次第です。