1/12/2008

ひび割れポテンシャル

今月号の黄表紙の論文2編目の方で,「ひび割れポテンシャル」って要は何ですか,という質問を受けた。

ひび割れポテンシャルが高い,とはひび割れが発生しにくい,という意味合いで使っていて,数値の正の方向は,ひび割れを発生させない方向になる。

つまり,コンクリートがひび割れまでにどの程度の余裕度をもっているか,という意味合いでつかっており,ある時点のコンクリートの応力と(応力履歴,温度履歴等に依存したその時点での)ひび割れ発生強度の対応をもってひび割れポテンシャルと提議している。

なぜ,ひび割れポテンシャルという言葉を使ったか,という背景には,そもそもひび割れ発生強度は上述したように養生履歴(温度,湿度),応力履歴等々の依存性があること,また,その時点で発生している応力にも,ひび割れ発生強度は依存していることから,両者を応力/割裂引張強度のようにそれぞれが独立な特性値として評価すべきではないでしょう,という思想がある。

また,別の意味合いでは,様々なコンクリートのひび割れ危険性を評価するときには,収縮応力とその収縮応力履歴を受けたコンクリートのひび割れ発生強度の対応から評価したら良いだろうと。

材料選定,調合時において,セメント,骨材,水セメント比をひび割れ危険性の評価から選定するには,潜在的にひび割れしやすいかどうか,つまり,完全拘束条件下での自己収縮応力と各材齢時でのひび割れ発生強度との時間依存性を評価する必要がある。本論文は,ひび割れ発生強度の時間変化を完全には切り取れないものの,二つの材齢を抽出して評価を行っている。

で,本論文では,自己収縮,乾燥収縮によってひび割れた時の強度,収縮応力が発生している状況において直接引張によって得られた強度を同一のものとしてとらえ,コンクリートがどれだけひび割れ発生しやすい状況にあるか,ということを「ひび割れポテンシャル」と呼んで議論している。

「ひび割れ発生の潜在可能性」という言葉の意味は,ある拘束条件下のある材齢で応力が生じているときに,ひび割れまでどれだけの余裕度があるか,というのを評価する目的でもちいている。我々は,応力履歴を経たコンクリートを所定の材齢で直接引張をした時の強度をもって,その余裕度をみたので,ひび割れたコンクリートだけでなく,ひび割れないコンクリートの潜在的余裕度も評価した,という意味合いである。

ひび割れポテンシャルは,コンクリートの一意な履歴条件上,ある材齢において一意に定まるのが本筋だが,また,拡大解釈として,コンクリートがひび割れしやすいかどうかを判断するに際して,ひび割れポテンシャルの時間依存性も含めて,たとえば「このコンクリートはひび割れポテンシャルが高い」といったように用いてもよいものと考えられる。

ポテンシャルは,場の意味ではなくて,語義通りひび割れまでの潜在可能性を表している。